モディ西ベンガル選挙の結果が出た瞬間、インド政治の地図は塗り替えられた。左翼政党と国民会議派が数十年にわたって守り続けてきた「最後の砦」が、BJPに陥落したのだ。単なる地方選の話じゃない。14億人の民主主義国家が、静かに別の何かへと変わっていく予兆として、世界が注視している。

BJPが崩した「左翼30年支配」の壁

西ベンガルといえば、インドの中でも異色の州だった。1977年から2011年まで、左翼戦線が34年間も政権を握り続けた州。その後は全インド草の根会議派(TMC)が引き継いだものの、いずれにせよBJPとは縁遠い土地柄だった。

ところが調べていくと、2019年の連邦下院選でBJPがこの州で急伸し、2021年の州議会選でも大幅に議席を増やしていた流れが見えてくる。今回の勝利はその延長線上にある。モディ政権は組織票の掘り起こしとヒンドゥーナショナリズムの浸透を地道に続けてきたらしく、一夜にして起きた変化ではなかった。

ここが引っかかったのだが、野党のTMCも国民会議派も、分裂・弱体化が進んでいて、BJPに対抗できるまとまった受け皿を作れていない。勝ちに行ったというより、相手が自壊していった側面もある。

「西ベンガル州選挙での勝利により、ナレンドラ・モディ首相は『野党なきインド』という夢に一歩近づいた」——The New York Times

この「夢」という言葉の選択が意味深だ。モディ政権にとっては悲願、批評家にとっては悪夢、という温度差がそのまま一語に込められている。

「選挙はある、でも競争がない」という状態

BJP一党支配への懸念でよく指摘されるのが、選挙という制度は残ったまま、実質的な競争が消える「民主主義のカラ」問題だ。インドは連邦制なので州政府が一定の独自性を持つが、連邦レベルでの圧倒的多数と地方政治の版図制圧が重なると、チェック機能が極端に細くなる。

インド民主主義の活力の源泉は、多様な言語・宗教・カーストが入り乱れる地域政党の存在感にあった、とも言われてきた。野党消滅が進めば、その多様性が政治に反映されにくくなる。経済政策の透明性や報道の自由に対して既に懸念が出ているインドが、グローバルサウスのリーダーとして発言力を維持し続けられるか、怪しくなってきた。

外国投資家の目線でも、一党支配は安定とリスクの両面があって、規制変更や国有化の判断が予測しにくくなるという声も出始めているようだ。

この先どうなる

直近の焦点は、残る野党勢力がBJPに対抗できる連合を組めるかどうか。国民会議派とTMCの関係は必ずしも良好ではなく、「共通の敵がいるのに一緒に戦えない」という野党の宿痾は今も続いているらしい。

一方、BJPも西ベンガルのような多様性の高い州を長期統治するのは簡単ではないという見方もある。地域のアイデンティティや言語・文化の問題で摩擦が生じれば、盤石に見えた版図にひびが入る可能性もゼロじゃない。

2027年以降の州選サイクルと2029年の連邦下院選に向けて、「野党なきインド」が完成するのか、それとも反転のきっかけが生まれるのか——今の西ベンガルはその試金石になりそうだ。