ホルムズ海峡の制海権をめぐって、米国とイランが同じ日に真逆の「勝利宣言」を出した。世界の原油輸送量の約20%が通過する海峡で、一方は「護衛成功」、もう一方は「封鎖能力の強化」を宣言した——普通に考えたら、どちらかが嘘をついている。あるいは、どちらも本当のことを言いながら、互いを追い込んでいるってことかもしれない。

ヘグセス「護衛成功」vs イラン「制海権強化」——同日に出た2つの発表

ピート・ヘグセス国防長官は、米海軍による商船護衛の新作戦を「成果だ」と称賛した。確かに護衛艦が随行すれば、個別の船舶がイランの革命防衛隊に拿捕されるリスクは下がる。数字の上では合格点に見える。

だがその同じ日、イラン国営メディアは別のストーリーを流した。

「ヘグセス国防長官は、ホルムズ海峡における船舶護衛という米国の新たな取り組みを称賛した。しかしイランの国営メディアは、テヘランによる海峡の支配が強化されたと報じた。」(The New York Times, 2026年5月5日)

イラン側の論理はこうだ——米海軍が商船を護衛するために展開するほど、イランは海峡での存在感と緊張操作の余地を広げられる。挑発に対して米軍が反応するという構図そのものが、イランの「影響力の証明」になるというわけだ。

護衛すればするほど、封鎖リスクが高まる逆説

ヘグセス護衛作戦が持つ皮肉な副作用がここにある。護衛艦の増派はエスカレーションのサイクルを回す起爆剤になりうる。米軍が動けば、イランの革命防衛隊は「海峡の主」であることを内外に示すための行動に出る誘因が生まれる。イラン海峡封鎖リスクは、緊張が高まるたびに値段が上がる保険のようなものだ。

過去にもイランは民間タンカーへの嫌がらせ、GPS妨害、高速艇による威圧行為を繰り返してきた。今回の局面で特徴的なのは、情報戦の速度が上がっていること。現場での動きよりも「どちらが勝っているように見えるか」というナレーティブの争いが、本戦に先行している。

日本にとってこれは遠い話じゃない。日本が輸入する原油の約9割がホルムズ海峡を通るルートに依存している。海峡が完全に封鎖されなくても、タンカー保険料が跳ね上がるだけで、ガソリン代や食料品の物流コストに波及する。2022年のウクライナ侵攻後に日本の物価が動いた経路と、ほぼ同じメカニズムだ。

この先どうなる

米イランの核交渉が並行して続いている間は、どちらも「全面衝突」には踏み込みにくい。ただ、交渉が行き詰まるか、米国内の政治的圧力が高まると、ヘグセス護衛作戦はより攻撃的な形に変わる可能性がある。イランはそのシナリオを読みながら、封鎖能力の誇示を「交渉カード」として温存し続けるだろう。海峡は閉じないが、閉じそうな状態を維持する——それがイランにとって最も安上がりな戦略だ。原油市場とタンカー保険の動向が、次の警戒サインになる。