欧州政治共同体の首脳会議がアルメニアの首都エレバンで開かれた。30カ国以上のリーダーが集まった先は、つい数年前まで「ロシアの最も近い同盟国」と呼ばれていた国だ。翌日には史上初のEU・アルメニア二国間首脳会議まで控えるという、前例のない連続開催。人口300万人にも満たない小国に、なぜいまヨーロッパが総出で駆けつけているのか。
2023年の電撃戦が、すべてを変えた
転機ははっきりしている。2023年、隣国アゼルバイジャンが短期の軍事作戦でナゴルノカラバフ地域を制圧した。アルメニアにとってこの地は数十年来の民族的・政治的象徴だった場所で、そこを一気に失った。
問題はその時、ロシアが動かなかったことだった。アルメニアはロシア主導のユーラシア経済連合に加盟し、首都には今もロシア軍の基地が存在する。集団安全保障条約機構(CSTO)の枠組みも抱えていた。それでもモスクワは「安全保障の傘」を事実上閉じた。アルメニア外交が西側へと軸足を移し始めたのは、その直後からだ。
プーチンが自ら語った「177ドルと600ドルの差」
ロシアはそれでもアルメニアを引き留めようとしている。今年4月1日、パシニャン首相がモスクワを訪問した際、プーチン大統領は自らガス価格の話を持ち出した。
「ロシアはアルメニアに1000立方メートルあたり177.50ドルでガスを供給している。欧州では600ドルだ。差は大きく、重要だ」
この発言、なかなか興味深い。わざわざ首脳会談の場で価格比較を口にするのは、経済的な依存関係を改めてアルメニアに意識させるためだったとみるのが自然だろう。実際、アルメニアはエネルギー面でロシアへの依存度が高く、この格差は小国にとって無視できない数字ではある。
ただ、アルメニア外交転換の流れはそれでも止まっていない。EUとの間では市民社会プログラムや経済支援の枠組みが積み重なり、今回の首脳会議はその象徴的な到達点になった。アルメニア外交転換が単なるポーズではなく、実態を伴いつつあることを示している。
この先どうなる
エレバンでの首脳会議が終わっても、アルメニアの選択は簡単ではない。ロシア軍は依然として国内に基地を置き、エネルギー価格という経済的なレバーも機能したまま。欧州への接近を続けながら、ロシアとの関係を完全に切ることはすぐには難しいはずだ。
一方でEUにとっても、南コーカサスへの関与を強めることは戦略的な意味を持つ。今回のような連続首脳会議が「外交上の見世物」で終わるのか、実質的な安全保障や経済の枠組みへと発展するのかが、今後の焦点になりそうだ。ナゴルノカラバフを失った国の選択が、この地域の地図をどう塗り替えるか——もう少し見ていく必要がある。