ジョン・ウィリアムズNY連銀総裁が5日、ニューヨーク市内のイベントで口を開いた瞬間、マーケットは察したはずだ――利下げは、まだ遠い。イラン戦争による供給混乱が現実となりつつある中、湾岸緊張が原油価格を押し上げ、アジア株は軒並み売りを浴びた。
ウィリアムズ発言の何が「利下げ封じ」になったのか
総裁の発言を整理するとこうなる。
「イラン戦争による混乱の中で、現在の米中央銀行のスタンスが物価安定と完全雇用へのリスクのバランスを取っている」(Bloomberg、5月5日)
「バランスを取っている」という言葉は一見穏やかだが、裏を返せば「現状維持が最善」という意味になる。エネルギーコストが再び上昇し始めた局面で利下げに動けば、インフレを手放すことになりかねない。FRBとしては動くに動けない状況で、ウィリアムズ発言はその窮屈さをにじませた発言だったとも読める。
原油価格の上昇がインフレ統計に乗るまでには数週間のタイムラグがある。だが市場は先読みが仕事だから、今この瞬間に「利下げ期待を削り取る」反応をした。アジア時間の株式市場が全面安に傾いたのは、この連想が一気に走ったためだろう。
日本・韓国・台湾が二重に挟まれた理由
湾岸緊張と原油価格の上昇がアジア株の下落に直結するのは、輸出依存型経済の宿命でもある。日本・韓国・台湾の3市場に共通するのは、エネルギーをほぼ輸入に頼りながら、製品を世界へ売るというビジネスモデルだ。
原油高はまずコストを押し上げる。製造業の電力費・輸送費・素材費がじわじわと上昇し、利益率を削る。同時に、FRBが利下げできない環境ではドル高圧力が続きやすく、円・ウォン・台湾ドルはそれぞれ下落しやすい。輸出企業にとっては一見プラスに見える通貨安も、エネルギー輸入コストの円換算が増えるため、メリットを打ち消す方向に働く。コスト増と通貨安が同時に来るとき、利益の計算式がひどく複雑になる。
韓国・台湾の半導体メーカーや日本の自動車メーカーにとっては、需要側の問題も浮上する。世界的なリセッション懸念が広がれば、最終消費が冷え込み、輸出数量そのものが落ちる可能性がある。アジア企業収益への圧力は、単なる「今月の話」では済まないかもしれない。
この先どうなる
焦点は二つある。一つは湾岸情勢がどこで落ち着くか。イラン戦争がホルムズ海峡の通航に実害をおよぼす段階に入れば、原油価格の上昇は現在の水準にとどまらない。もう一つはFRBの次の一手で、6月のFOMCまでに出てくる雇用統計・CPIの数字次第では、ウィリアムズ発言のニュアンスが変わってくる余地もある。
アジア株にとって最悪のシナリオは「原油高止まり+FRB据え置き長期化+世界需要の冷え込み」が同時進行するケースで、これが現実になるかは湾岸の出方待ちというのが正直なところ。当面、市場は原油価格の動きとFRB高官の発言を一言一言拾い続けることになりそうだ。