モスクワ ドローン攻撃が、よりによって戦勝記念日の数日前に起きた。ニューヨーク・タイムズが報じたところによれば、首都モスクワの高層ビルに無人機が直撃し、ロシアが誇る防空網が突破されたという。プーチン政権がパレードで「強いロシア」を演出しようとしていたまさにそのタイミング——なんとも間が悪い、いや、ウクライナ側にとってはこれ以上ない「間」だったかもしれない。

対空防衛網を破った、その意味

モスクワは二重三重の防空システムで守られているとされてきた。S-400をはじめとする地対空ミサイル網、電子妨害システム、迎撃用ドローン部隊——それだけの備えがあっても、今回は市街地の高層ビルまで届いてしまった。

軍事専門家が注目しているのは建物の被害より、そこに至るまでの飛行ルートのほうらしい。長距離を低空で飛び、レーダーの死角を縫ってきたとすれば、ウクライナの長距離攻撃技術が相当なレベルに達している証拠になる。「一機が届いた」ではなく「なぜ届いたか」——そっちが問題なわけだ。

「ウクライナが長距離攻撃を拡大する中、ロシアの首都の防空網が突破された。」——The New York Times

ウクライナ側はこれまでにもモスクワ近郊への攻撃を繰り返してきたが、市街地中心部の高層ビルへの着弾となると話が変わってくる。戦場がウクライナ東部の塹壕だけではなくなっている、ということをロシア市民も肌で感じ始めているだろう。

5月9日パレード、プーチンが送りたかったメッセージが狂った

毎年5月9日の戦勝記念日は、ロシアにとって国内外への「力の誇示」の場だ。赤の広場を戦車や核搭載可能なミサイルが行進し、プーチンが演説する。その映像は世界中に配信され、「ロシアは揺るぎない」というイメージを発信する装置として機能してきた。

ところが今年は、パレード直前に首都の高層ビルへ攻撃が届いてしまった。「守れていない首都」の映像と「強大な軍を誇示するパレード」が同じ週に並ぶ——このギャップは、クレムリンが最も避けたかった絵だったはずで、対外的なメッセージは根本から揺らいでいると報じられている。

当然ながらクレムリンは攻撃の被害を矮小化するか、あるいは「直ちに迎撃した」と発表するだろう。ただ、映像や目撃情報はSNSで拡散される時代。情報を完全に統制するのは難しくなっている。

この先どうなる

ウクライナが長距離打撃能力を拡大させていくなら、モスクワへの攻撃頻度は今後も上がる可能性がある。そのたびにロシア国内の「戦争は遠い話」という感覚が削られていく。

一方でロシア側も反撃を強めるとみられ、ウクライナのエネルギーインフラや都市部への大規模攻撃が再び激化するシナリオは排除できない。5月9日のパレードがどんな演出で行われるか——そこにクレムリンの「現在の焦り度合い」が透けて見えるかもしれない。戦勝記念日の朝、世界はその映像を少し違う目で見ることになりそうだ。