ホルムズ海峡で、民間の貨物船が米軍艦艇に守られないと動けない——そんな状況がじわじわと現実になってきた。世界最大のコンテナ海運企業マースクの船が、米軍の護衛のもとホルムズ海峡を通過し、ペルシャ湾から脱出したとBloombergが報じた。原油タンカーではなく、コンテナ船までが護衛を必要とする時代に入りつつあるらしい。

マースク護衛が示す「民間船が単独で動けない海」

ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過する、事実上の咽喉部だ。ここが詰まれば中東産原油の大部分がアジア市場に届かなくなる。日本の輸入原油の約9割は中東産。他人事では全然ない。

イランは近年、海峡付近での船舶拿捕や威嚇航行を繰り返してきた。過去には革命防衛隊が貨物船2隻を強制拿捕した事例も記録されている。今回マースクが米軍護衛を選んだのは、そうした前例があってのことだろう。「万が一」を想定しない選択肢が、もはや経営上の常識になってきた感がある。

Maersk Vessel Exits Persian Gulf Under US Military Escort — Bloomberg

今回の護衛は、単なる警備ではなかったはず。米海軍がアラビア海でパトロールし、ホルムズ海峡付近の商船を守る姿勢を見せること自体が、イランへのシグナルになっている。「航行の自由はアメリカが力で守る」という意思表示、と読んだほうが自然じゃないか。

米・イラン、偶発衝突のシナリオが現実味を帯びてきた

問題は、そのシグナルが摩擦も生み出している点だ。米軍とイラン革命防衛隊が狭い海域で向き合う機会が増えれば、偶発的な衝突リスクも上がる。撃墜された米戦闘機のパイロットがイランから生還したケースも最近報じられており、海と空、双方でのにらみ合いが続いている状況だ。

米イラン間で核合意の再建交渉が断続的に続いているとはいえ、現場レベルの緊張は交渉とは別次元で動いている。マースク護衛は、その「二重構造」を象徴する出来事とも言える。

コンテナ運賃への影響も気になるところ。護衛コストや迂回ルートのリスクプレミアムは、いずれ荷主や消費者に転嫁されていく。ホルムズ海峡の緊張は遠い話ではなく、日本のスーパーの棚にじわっと出てくる話でもある。

この先どうなる

米軍による商船護衛が「例外」から「常態」になるかどうかが、当面の焦点になってくる。護衛体制が恒常化すれば海運コストは構造的に上がり、イランとの偶発衝突リスクも慢性化する。一方でイランが核交渉で一定の合意に達すれば、封鎖圧力は緩む可能性もある。ただ今の段階では、どちらに振れるか読めない。マースク護衛ルートが「当たり前の光景」になる前に、外交が機能するかどうか——そこを引き続き追いたい。