カーニー欧州サミット出席が、ただの外交イベントじゃないと気づいた瞬間があった。G7の一員であるカナダが、米国抜きの場で欧州と肩を並べた——これは儀礼的な友好訪問じゃなく、明確な政治的選択に見える。トランプ政権が高関税を振りかざし、NATO負担を口実に同盟をコスト計算で語り始めてから、欧州の焦りは相当なものだった。その「不安」に、カーニーは二枚のカードを差し出した。取引と友好、である。
CETAがある。なのになぜ「特別招待」なのか
カナダとEUの間にはすでにCETA(包括的経済貿易協定)がある。2017年に暫定発効したこの枠組みは、関税撤廃と市場アクセスで両者の貿易を底上げしてきた実績がある。だから純粋に経済の話なら、わざわざサミットに呼ぶ必要はなかったはずで、そこが引っかかった。
今回の「特別招待」は、CETA カナダEU貿易の深化というより、政治的な位置取りのシグナルとして機能している。欧州側が欲しかったのは、貿易条件の改善ではなく「アメリカの隣にいる国が、我々の側に来た」という絵だったんじゃないか。カーニーもそれを理解した上で出席している節がある。
「欧州首脳サミットで、カナダ首相は不安を抱える同盟国に取引と友好を差し出す『特別招待ゲスト』として出席した。」(ニューヨーク・タイムズ)
「不安を抱える同盟国」という表現が刺さる。欧州はいま、米国への依存を恥じているわけじゃなく、依存していた相手が突然ルールを変えてきたことに戸惑っている。防衛でも貿易でも「条件を出してきた」相手への対応を、まだ手探りしているのが実情らしい。
トランプ関税が同盟再編を加速させた皮肉
トランプ政権の高関税政策は、中国だけを狙ったつもりだったかもしれない。ところが実際には、欧州・カナダ・日本まで広く巻き込んだ。結果として起きたのが、標的にされた側の「横の連携」だった。トランプ関税 同盟再編という言葉が外交アナリストの間で使われるようになったのは、この流れを指している。
カーニーが欧州の首脳たちと同じテーブルに座った光景は、その連携が「話し合い」から「形」になり始めたことを示していると思う。カナダは地理的にも歴史的にも米国と深く結びついている。その国が欧州側に軸足を移しつつあるなら、これは単なる外交辞令ではすまない。
もっとも、カナダが米国と完全に距離を置けるかといえば、そうはならないだろう。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)という枠組みが残る限り、カーニーの選択肢は「欧州との関係強化」であって「米国との決別」ではない。それでも、今回の出席が残したメッセージは重かった。
この先どうなる
カーニーが欧州サミットで撒いた種が実るかどうかは、この先数カ月の動きで見えてくる。CETAの枠を超えた新たな協力協定の交渉が始まるのか、それとも今回の接近は「雰囲気だけ」で終わるのか。欧州議会の承認プロセスや、各国の対米関係のバランスが、実際の距離感を決める。トランプ政権の関税圧力が続く限り、欧州がカナダとの連携を深めるインセンティブは消えない。次にカーニーの名前が欧州文脈で出てくるとき、それが具体的な条約の話になっているかどうか——そこを見ておく価値はある。