オーストリア ロシア外交官追放——そのきっかけは、大使館の屋上に積み重なった無数のアンテナだった。オーストリア政府は2025年、ロシア大使館員3人をスパイ活動を理由に国外退去させ、3人はすでにオーストリアを離れている。外交施設の屋根を覆う「アンテナの森」が、長年にわたって衛星通信の傍受装置として機能していたという話は、どこかスパイ映画めいている。だが現実だった。
ウィーン・ロシア大使館の屋上で何が行われていたか
オーストリア放送協会(ORF)が外務省の確認を得て報じたところによると、アンテナはウィーンのロシア大使館屋上と、別の在外公館施設の両方に設置されていた。狙われていたのは、国際機関を含む各組織が使う衛星インターネット通信。ウィーンはOPEC事務局や国連ウィーン事務局など複数の主要国際機関が本部を置く都市だ。どの組織の通信が傍受されていたかは明らかにされていないが、ORFはオーストリア情報機関がこのアンテナ群を「長年の懸念材料」として注視してきたと伝えている。
「外交施設の屋上に設置された『アンテナの森』を使って情報収集を行っていた」——マインル=ライジンガー外相(ORF報道、外務省確認済み)
外相はBBCへのコメントでも「外交特権をスパイ活動に利用することは断じて容認できない」と明言。今の連立政権として対諜報活動の方針転換を図ると強調した。この「方針転換」という言葉が引っかかる。裏を返せば、これまで見て見ぬふりをしてきた時期があった、ということでもある。
中立国ウィーンとロシア諜報活動、その深い因縁
冷戦期からウィーンは東西の諜報員が行き交う舞台だった。オーストリアは1955年に永世中立を宣言して以降、NATO非加盟のまま国際機関のハブとして発展してきた経緯がある。ロシア側にとっては、外交チャンネルを最大限に活用しやすい環境でもあったわけで、今回発覚した傍受活動もその延長線上にあるとみることができそうだ。
ロシア大使館はこの措置を「不当かつ完全に政治的動機に基づく」と猛反発し、「モスクワは必ず厳しく報復する」と警告した。ただ、具体的な報復の中身は現時点で示されていない。欧州各国がロシア外交官を相次いで追放してきた近年の流れから言えば、相互追放の応酬という展開が最も読みやすいシナリオだ。
この先どうなる
ロシアがどのような報復措置を取るかが当面の焦点になる。オーストリア外交官の追放、あるいは二国間の通商・外交チャンネルの縮小といった手が考えられる。一方でウィーンのロシア大使館が今後も国際機関の集積地に近い場所に存在し続ける以上、諜報活動の疑念は簡単には消えない。オーストリアが「中立」という看板と対ロ強硬姿勢をどう両立させていくか、欧州全体が注目している。アンテナは撤去されたかもしれないが、ゲームはまだ続いている。