レコディク鉱山の開発計画が、銃声のたびに揺らいでいる。パキスタン南西部バロチスタン州の荒野に眠る世界屈指の銅・金鉱床をめぐって、バロチスタン解放軍(BLA)が攻撃を繰り返し、トランプ政権が進める数十億ドル規模の資源合意が頓挫しかねない状況になってきた。

BLAが狙う「数百億ドルの地下」

レコディク鉱山の推定資源価値は数百億ドル。銅と金が眠るこの鉱床は、バロチスタン州の中でも特に開発から取り残されてきた地域に位置する。BLAは長年にわたって州内でのゲリラ活動を続けてきた武装組織で、「資源は奪われるが、バロチの人々には何も残らない」という怒りを燃料にしてきた経緯がある。

今回の攻撃が直接どの施設や要員を標的にしたかは現時点で詳細が確認されていないが、NYタイムズが報じたように、こうした武力行使が投資環境を直撃していることは間違いない。外国企業にとって「現場で何かあったとき」のリスク評価は契約の前提条件だから、攻撃が続けば合意は紙の上だけのものになりかねない。

「バロチスタン解放軍による攻撃が、パキスタンとトランプ政権との数十億ドル規模の鉱山開発合意を頓挫させる恐れがある」(The New York Times)

トランプ政権がレコディクに目をつけた背景には、重要鉱物をめぐる米中の綱引きがある。電気自動車や軍事技術に欠かせない銅の安定調達ルートを中国以外に確保したい——という動機は、政権内で一貫している。パキスタンとの合意はその文脈で動いており、単なる二国間取引以上の意味を帯びていた。

バロチの人々が40年間、訴えてきたこと

バロチスタンは天然ガスも産出し、イランへの回廊にもなる地政学的な要衝だ。にもかかわらず、州の貧困率はパキスタン国内で最も高い水準にある。「地下資源は国が使い、地元には雇用も補償もない」という不満は1970年代から蓄積されてきたものらしく、BLAはその怒りを組織化した一つの形だと見られている。

つまり、今起きていることはある日突然始まったわけじゃない。外から見ると「武装組織の攻撃」でひとくくりにされがちだけど、数十年分の疎外感が背景にある。開発利益の分配をどう設計するかという問題を先送りにしたまま鉱山を動かそうとすれば、抵抗は続く——というのが現地の文脈からみた実態だ。

この先どうなる

米パキスタン間の協議が完全に止まったわけではないが、現地の治安情勢が改善しない限り、実際の採掘開始は遠のく一方だろう。パキスタン政府には軍によるBLA掃討作戦を強化する圧力がかかるとみられるが、過去の経験では軍事力だけで火を消すことはできていない。

トランプ政権としては、中国への対抗軸として打ち出した合意が頓挫するのは避けたいところで、何らかの形でパキスタン側への支援や仲介を強化する可能性はある。ただ、バロチの人々が求めているのは安全保障の強化ではなく、資源収益の公正な分配だ。その問いに誰も正面から答えないうちは、レコディクの銅は地面の中で眠り続けるかもしれない。