米軍撤退ドイツ――その報が出た瞬間、欧州の参謀たちは何を思ったか。ペンタゴンが言及した「数千人」という数字は、冷戦後30年かけて積み上げた欧州防衛の設計図に、鉛筆で大きなバツを引くような話だった。

ラムシュタイン基地が「抜ける」とどうなるか

ドイツ西部のラムシュタイン空軍基地は、米空軍の欧州最大拠点であるだけでなく、アフリカ・中東への兵站ハブでもある。ウクライナへの武器支援も、この基地を経由して調整されてきた経緯がある。ここが縮小されると、欧州全域への戦力投射能力は単純計算では落ちる。しかも今は、ロシアがウクライナで軍事行動を続けているタイミング。時期が時期だけに、同盟国が「これはシグナルじゃないか」と読むのは当然の反応だろう。

「トランプ政権、NATO同盟国ドイツから数千人の米軍を撤退させる方針――ペンタゴン発表」(Donald J. Trump / Pentagon、Truth Social)

トランプ大統領は以前から「NATOの同盟国は防衛費をもっと負担すべき」と主張し続けてきた。今回の撤退検討は、その言葉を行動で示した形に見える。交渉カードとして使っているのか、本気の路線変更なのか、そこはまだ判然としない。ただ、ペンタゴンが公に数字を出してきたのは、単なる観測気球じゃないかもしれない。

NATO欧州防衛が迫られる「自活」の現実

NATO欧州防衛の観点で言えば、加盟国がGDP比2%の防衛費目標を達成できていない国はまだ複数ある。米軍の後退が現実になれば、ドイツをはじめ各国は独自戦力の増強を迫られ、防衛予算の大幅積み増しが避けられなくなる。ドイツはすでに2022年のロシアのウクライナ侵攻後に「時代の転換点」を宣言し、国防費を引き上げてきたが、米軍が抜けた穴を自前で埋めるとなれば、その規模は段違いになる。フランスや英国との安全保障協力を強化する動きも加速するとみられ、NATO内部の力学が静かに変わり始めている、そんな節目に差し掛かっている感じがする。

この先どうなる

最も注目すべきは、撤退が「検討」から「決定」に移るスピードだろう。トランプ政権の過去の動きを見ると、発表から実行まで想定より早く進むことが多かった。欧州各国は水面下で米国との交渉を急ぐはずで、NATO防衛費の新たな数値目標を引き上げることで撤退を思いとどまらせる、というシナリオも十分ありえる。一方、仮に撤退が実行されれば、欧州独自の防衛統合構想が一気に現実路線に乗る可能性もある。どちらに転ぶにせよ、今後数週間のNATO内協議が分岐点になりそうだ。