トランプ・メルツ・米軍撤退——この三つが同じ投稿に並んだとき、大西洋同盟に走った亀裂は小さくなかった。トランプ前大統領はTruth Socialにドイツのメルツ首相を名指しした投稿を公開し、スペインに展開する米軍部隊の撤退を「検討中」と明記した。同盟国の首脳をSNSで公然と罵倒する手法は今に始まったことじゃないが、具体的な駐留地名と撤退という言葉が並ぶのは異例だった。
「壊れた国を直せ」——メルツへの直撃弾が意味すること
問題の投稿でトランプが使ったのが、この一言だ。
「お前の壊れた国を直せ」
ドイツは財政赤字の上限を定めた「債務ブレーキ」の緩和を巡って国内が揺れており、国防費の大幅増額は政治的に綱渡りの状態にある。GDPの2%という NATO目標を達成したとしても、トランプは「まだ足りない」という立場を崩していない。メルツにとってみれば、就任直後に同盟国のトップからこれをぶつけられた格好で、国内向けのメッセージとしても相当きつい一発だったはずだ。
スペイン駐留米軍の撤退示唆——欧州安全保障への波紋
スペインにはモロン空軍基地とロタ海軍基地があり、米軍はここを欧州・アフリカ・中東への前進拠点として使ってきた。NATOの欧州抑止力を語るとき、この二拠点は地図の上でかなりの重みを持っている。撤退が現実になれば、ロシアにとって地政学的な追い風になりかねないという見方は、防衛アナリストの間でほぼ一致している。
ただ、今回の発言が本気の撤退布石なのか、それとも欧州各国に国防費を積み増させるための圧力戦術なのか、その読み方は割れている。トランプはこれまでも「撤退するかもしれない」という曖昧さを武器にしてきた。NATO加盟国が防衛費増額に動くたびに、発言のトーンが少し和らぐというパターンは過去に繰り返されてきた。欧州安全保障トランプ圧力という構図は、2017年の第一次政権から変わっていない。
一方で、今回は具体的な国名と基地のコンテキストが伴っていた点が前回と違う。「やるかもしれない」から「検討中」への言葉の変化を、単なるブラフと片付けられないと感じた欧州の安全保障担当者は少なくないはずだ。
この先どうなる
NATOスペイン米軍をめぐる今後の焦点は、マドリードがワシントンとどう直接交渉するかだろう。スペインはNATO内では比較的低い国防費を維持してきた国のひとつで、今回の示唆を受けてGDP比2%への引き上げを迫られる可能性は高い。ドイツも含め、欧州各国は「アメリカが本当に抜けたとき」を想定した自律防衛の議論を加速させるはずだ。トランプの一投稿が欧州の再軍備論争に火をつける——皮肉だが、そういう展開がいちばんありそうな気がする。