フーシー派によるタンカー拿捕の疑惑に、新たな名前が加わった——ソマリア海賊だ。ニューヨーク・タイムズが報じた内容によれば、イエメン沖からソマリア沖にかけての海域で石油タンカーが武装勢力に乗っ取られており、攻撃の位置とタイミングがフーシー派とソマリア海賊の共同作戦を疑わせるという。もしこれが事実なら、2023年末から続く紅海の混乱は、東アフリカ沖のインド洋にまで一気に飛び火する。

12%の原油が通る航路で何が起きているか

アデン湾と紅海は、世界の原油輸送量のおよそ12%が通過するチョークポイント。フーシー派はイスラエルへの対抗を名目に、2023年末から商船への攻撃を繰り返してきた。その結果、すでにコンテナ船各社は大西洋経由のケープタウン迂回ルートに切り替え、航行距離が一気に約10日分延びるという事態になっている。

そこに今回の報道が加わった。ソマリア沖は従来、フーシー派の射程外とみられていた海域。それがターゲットに入るとなれば、脅威の「ベルト」が紅海からアラビア海、インド洋北西部にまでつながることになる。海運アナリストの間では「アフリカ東海岸全体が危険水域になりかねない」という声が出始めているらしい。

「攻撃の場所とタイミングが、イランとの戦争が続く中で、ソマリアの海賊とイエメンのフーシー派の潜在的な協力関係への懸念を高めた」——The New York Times

フーシー派はイランの支援を受けるとされる「抵抗の枢軸」の一角。ソマリア海賊がそのネットワークに引き込まれているとすれば、資金・情報・武器ルートのどこかでつながっている可能性がある。ただし現時点では「疑惑」の段階で、連携の証拠が公開されたわけではない点は押さえておく必要がある。

保険料と迂回コスト、荷主に跳ね返る数字

海運業界がすでに動き始めているのが気になった。保険会社は戦争リスク割増料の引き上げを検討中で、一部の船社はケープタウン迂回を加速させているという。迂回ルートに切り替えると燃料費だけで1航海あたり数十万ドル単位のコスト増になるとも言われており、それは最終的に輸送コストとして荷主、ひいては消費者物価に転嫁されていく。ソマリア海賊との連携疑惑は、原油価格の話だけじゃなく、あらゆる物流コストに絡んでくる話でもある。

アデン湾航路リスクの拡大は、日本にとっても他人事じゃない。日本は中東からの原油輸入をホルムズ海峡・アラビア海経由に大きく依存している。インド洋北西部で海上の安全が損なわれれば、タンカーの保険コスト上昇という形で確実に波及する。

この先どうなる

当面の焦点は三つ。ひとつは連携疑惑の「証拠」が出るかどうか。米海軍や各国情報機関が監視を強化しているとみられ、何らかの声明が出れば情勢は一変する。ふたつ目は保険会社がどこで料率改定に踏み切るか——引き上げ幅次第で迂回ルートへの切り替えが加速し、コンテナ運賃の再騰が現実味を帯びる。三つ目はフーシー派への軍事圧力の行方。米軍はすでにイエメン内陸への攻撃を続けているが、海上での脅威を完全に抑え込むには至っていない。ソマリア沖まで戦線が広がるようなら、対応コストはさらに膨らむだろう。静かに拡大するこの「海の不安定ベルト」、しばらく目が離せない。