ヨルダン観光のハイシーズンが、今年はほぼ消えた。ペトラに向かうはずだった旅行者が、フライトもホテルも、ツアーも全部キャンセルした。ヨルダンはガザでもレバノンでも戦っていない。それでも、観光地には静寂だけが残った。

ペトラに客が消えた春——ガイドたちに仕事はなかった

ヨルダンの観光業はGDPの約7%を支える産業だ。ペトラやワディ・ラムは年間を通じて欧米からの旅行者を集め、春から初夏にかけてがもっとも稼げる時期とされていた。ところが今年、そのハイシーズンがほぼ機能しなかったらしい。

現地のガイドたちは予約がまとめてキャンセルされる連絡を受け続けた。ホテルの客室稼働率は落ち込み、土産物店には買い手がいない。ヨルダン政府が直接的な戦闘に加わっていないにもかかわらず、だ。

「ヨルダンは紛争にほぼ直接関与しなかったにもかかわらず、人気観光地では観光ハイシーズンがほぼ壊滅した。旅行者はフライト、ホテル、ツアーをキャンセルした」——ニューヨーク・タイムズ

旅行者が抱いたのは「中東=危険」というざっくりした恐怖感だった。ヨルダンがどこにあるか、イスラエルやイランとどう違うか、そこまで調べてから予約を入れ直す旅行者は少数派だったということだろう。

中東戦争の経済被害、飛び火するメカニズム

これが今回改めて見えてきたことだと思う。戦火が物理的に届かなくても、報道が積み重なると「中東全域」がひとつの危険ゾーンとして認識される。旅行保険の適用外になったり、外務省の危険情報が周辺国に出たりすると、隣国への渡航自体が敬遠される。

ヨルダンは中東の中では政治的に安定した国として知られてきた。それでも今年の観光収入は深刻な落ち込みが避けられない見通しで、現場で働く人々への打撃は直接的だ。ガイド、ドライバー、宿泊施設のスタッフ——観光に依存するほど、こういう「巻き添え」を受けやすい。

ヨルダンに限らず、中東戦争の経済被害は周辺国の観光・貿易・投資すべてに波及している。ペトラ旅行者の減少はその象徴的な一例にすぎないかもしれない。

この先どうなる

ガザやイラン周辺の緊張が長引くほど、旅行者の「中東回避」は続くとみられる。ヨルダン政府は観光業の立て直しに向けて独自の安全性アピールを強化しているが、ニュースの流れが変わらない限り、個人の旅行判断に届くまでには時間がかかる。

次のハイシーズンまでに停戦や情勢の安定化が進むかどうか——ペトラの土産物店主たちが見ているのは、戦況地図よりも予約サイトの画面だったりする。