ルベン・ロチャ・モヤの名前が、米連邦大陪審の起訴状に刻まれた。メキシコ・シナロア州の現職知事、しかもカルテルとの共謀罪での訴追――これは「疑惑」ではなく、正式な刑事手続きの話だ。現職州知事がこうした形で米司法当局に起訴されるのは、記録をさかのぼっても前例がないらしい。

知事室とカルテルをつないでいた「長年の共謀」

起訴状が描くのは、一人の政治家の単純な汚職話じゃない。ロチャ・モヤ知事を含む複数のメキシコ政府当局者が、シナロア・カルテルの活動を組織的に保護するネットワークを形成してきたという疑惑だ。

シナロア州といえば、世界最大規模の麻薬密輸組織が生まれた土地。「エル・チャポ」ことホアキン・グスマンが君臨し、フェンタニルの米国流入ルートの一端を担ってきた地域でもある。そこの州政府のトップが、カルテルの「保護者」役を長年演じていたとすれば、話は腐敗の次元を超える。

「検察当局は、シナロア州知事ルベン・ロチャ・モヤおよびメキシコ政府の複数の当局者が、強力な麻薬カルテルを長年にわたって保護する共謀に加担したと訴追した。」(The New York Times)

調べていくと、ここで引っかかったのが「複数の当局者」という部分。知事一人を吊るし上げて終わりではなく、州政府の複数のポジションにカルテルの息がかかっていたとみられる点だ。ネットワーク型の癒着構造がすでに機能していたなら、知事が逮捕されたとしても組織は動き続ける可能性が高い。

トランプ政権の「対メキシコ包囲網」と絶妙に重なるタイミング

今回の起訴のタイミングも見逃せない。トランプ政権はメキシコに対して関税圧力をかける一方、カルテル組織をテロ指定する方針を打ち出してきた。その流れの中で、現職州知事への連邦起訴状が飛び出した格好だ。

メキシコ側にとっては、内政干渉とも映りかねない事態。シナロア・カルテルに関する捜査や訴追をめぐっては、過去にも米墨間で情報共有の齟齬や外交的摩擦が起きてきた経緯がある。クラウディア・シェインバウム大統領率いるメキシコ政府が、今回の起訴にどう反応するかが次の焦点だろう。

メキシコ国内では、ルベン・ロチャ・モヤは与党「国家再生運動(モレナ)」の有力政治家として知られる。党政府としては、この起訴をどう処理するか、沈黙を選ぶのか反発するのか、対応が問われる局面に入った。

この先どうなる

米連邦裁判所の管轄はメキシコ国内には及ばない。つまり、ロチャ・モヤ知事を実際に法廷に連れてくるためには、メキシコ政府による身柄の引き渡し(身柄拘束→引き渡し交渉)が必要になる。エル・チャポの引き渡しに数年かかったことを思えば、この裁判が始まるまでにどれだけの時間がかかるか、現時点では読めない。

一方、米側の捜査はまだ「複数の当局者」を対象としており、起訴された顔ぶれが今後拡大する可能性もある。シナロア・カルテルとメキシコ政府の癒着を巡る全体像が法廷で明かされることになれば、それはメキシコの政治そのものへの信頼を揺るがす話になってくる。外交的な着地点が見えないまま、捜査だけが前に進んでいくという、なんとも不安定な状況が続きそうだ。