ロシアのインターネット規制が、皮肉にも批判の火種を広げている。美容系インフルエンサーが政治的な声明を投稿し、野党政治家がVPN経由で情報を発信する——かつてソ連では想像しにくかった光景が、2025年のロシアでは当たり前になってきた。

美容垢が政治を語る日、VPN利用者は数百万人

ニューヨーク・タイムズの報道によれば、プーチン政権によるアクセス制限の強化を受け、ロシア国内のVPN利用者はすでに数百万人規模に達しているらしい。遮断されるはずのSNSやニュースサイトに、人々は迂回路を見つけて辿り着いている。

興味深いのは、声を上げているのが「政治活動家」だけじゃないってこと。フォロワー数十万のコスメ系インフルエンサーが、メイク動画の合間にネット規制への不満を投稿する。フォロワーはそれを共有し、話題はまた広がる。政府が統制しようとする構造そのものが、拡散のエンジンになっている。

「美容系インフルエンサーから名ばかりの政治的反対勢力に至るまで、ロシア国民はプーチン大統領のインターネットアクセス制限への動きを公然と疑問視している」(The New York Times)

プーチン検閲への反発が、こうした非政治的な層まで波及しているのは見逃せない変化だった。政治に興味のない人が「つながれない」ことに怒る——これは体制批判とは別の回路で、むしろ手がつけにくい。

サミズダートからVPNへ、40年分の速度差

歴史を引っ張り出すと、ソ連崩壊前夜にも似た構図があった。「サミズダート」と呼ばれる地下出版物が検閲をすり抜け、体制への不満を静かに伝えた時代。ただ、あの頃は紙の複写機で何枚刷れるかが限界だった。

今は違う。VPNを設定すれば数秒でアクセスが回復し、Telegramのチャンネルに投稿すれば数万人が同時に読む。情報の抜け穴が開く速度も、塞ごうとする側の反応速度も、1980年代とは桁が違う。ロシア当局がWhatsAppやInstagramを遮断するたびに、ユーザーは別のルートを探し出してきた。この繰り返しが、VPN急増という数字に積み重なっている。

ここで引っかかったのが、規制の強化がかえって人々の「検閲破り」スキルを底上げしているんじゃないかという点。使いたいアプリが突然消えれば、使い方を調べる。それが次の回避手段を覚えるきっかけになる。

この先どうなる

ロシア当局がVPN自体の締め付けを強化する可能性はある。実際、一部のVPNサービスはすでに国内でブロックされているらしい。技術的な封じ込めと、迂回技術の進化——この消耗戦がどこまで続くかは読めない。

一方、プーチン検閲への反発が「インフルエンサー」という形で可視化されたことは、当局にとっても計算外だったんじゃないか。政治的な反体制派を封じるのとは勝手が違う。美容アカウントを一斉に凍結すれば、今度はそれ自体が炎上のネタになる。ロシアのインターネット規制をめぐる攻防は、技術の問題である前に、人々の日常とどう折り合うかという問題でもある。