ブリューゲル研究所が弾き出した数字は、欧州の財政当局者にとって居心地の悪いものだったはずだ。イランを起因とするエネルギー価格急騰への対応として、欧州各国が投じた補助金の総額は100億ユーロ、円換算で約1兆7000億円。問題は金額ではなく、その行き先だった。

100億ユーロの補助金、誰の財布に入ったのか

ブルームバーグが伝えたブリューゲルの分析によれば、欧州エネルギー補助金の恩恵を最も受けたのは低所得層ではない可能性が高い。エネルギーコストをある程度吸収できる余力を持つ富裕層や産業界に資金が流れた、という見立てだ。

補助金の設計が「全方位」になりがちな理由は、政治にある。対象を絞れば反発が生まれる。全員に配れば反発は起きない。结果として、最も助けを必要としない層にも巨額の公金が届くことになる。

Europe Spent €10 Billion on Iran Energy Shock Aid, Bruegel Says(欧州はイランのエネルギーショック支援に100億ユーロを費やした、とブリューゲルが報告)― Bloomberg

ブリューゲルはこの支出を「誤った方向への資金(misdirected)」と表現した。やんわりした言葉だが、意味は辛辣だ。

危機対応の補助金が「ばらまき」になる4つのステップ

今回のケースを整理すると、ほぼ同じ流れが見えてくる。①有事が起きる、②政府が素早い対応を迫られる、③審査コストを省いて広く配布する、④事後に「誰が受け取ったか」が問題になる――このサイクルは欧州に限った話じゃない。

日本でも2020年代の給付金政策で似た議論が繰り返されてきた。「スピード重視か、精度重視か」のトレードオフは、どの国の財政当局も答えを出せていない未解決問題だ。欧州エネルギー補助金の今回の事例は、そのトレードオフが1兆7000億円規模で具現化したものといえる。

イランエネルギーショックが欧州経済に与えた打撃は本物だった。ただ、その傷を癒すために用意した薬が、傷を負っていない人たちにも配られていたとしたら――ブリューゲルが問いかけているのはそこだ。

この先どうなる

ブリューゲルの報告を受け、欧州議会内では補助金の対象・効果検証を求める声が出始めているとみられる。イラン情勢が長期化すれば第2波の支援策も議論に上がるだろうが、今回の「誤配分」批判が設計見直しを後押しする可能性はある。低所得世帯への直接給付や、エネルギー消費量に連動した段階的補助といった代替手段が、次の政策論争の焦点になりそうだ。1兆7000億円の教訓が活かされるかどうか、次の危機が来るまでに答えが出るかは、正直わからない。