原油価格急騰が現実になった日、数字が妙に雄弁だった。WTI先物は一時1バレル80ドルを突破し、上昇率は約3%。中国がゼロコロナ政策の撤廃に動いたと伝わった直後のことだった。「景気後退で需要は落ちる」と読んでいたトレーダーたちの目算が、一夜でひっくり返った格好だ。

中国の「帰還」と、日量50万バレルの穴

今回の急騰を読み解くには、二つの動きを同時に見ておく必要がある。一つは需要側。世界最大の原油輸入国である中国が本格的な経済活動の再開に踏み切ったこと。都市封鎖が繰り返されてきた2年間の反動で、エネルギー消費の回復速度は想定より速くなるとみられている。

もう一つは供給側。国際エネルギー機関IEAが報告したのは、ロシアの原油生産量が欧米の制裁の影響で日量50万バレルを超える水準で減少しているという事実だった。これだけでも市場には十分な衝撃なのに、そこに中国の需要回帰が重なった。

「中国がゼロコロナ規制を撤廃に動いたことで需要見通しが改善し、一方でロシアの生産量が減少したとIEAが報告したことで、供給懸念も継続している。」(Reuters、2023年3月)

供給が縮んでいるところに、需要が戻ってくる。市場の教科書通りの展開と言えばそうなのだが、これほどの規模で同時に起きるのは珍しいらしい。

80ドルで終わらない、夏場への警戒感

問題は、これがピークではない可能性があることだ。エネルギーアナリストらは「中国の経済活動回復が夏場に向けてさらに加速すれば、価格圧力は一段と強まる」と分析している。中国再開直後のデータはまだ出そろっていないが、製造業や航空需要の回復が本格化すれば、原油消費量の押し上げ効果は今よりずっと大きくなりうる。

日常生活への影響は、ガソリンスタンドの価格表示だけじゃない。輸送コストが上がれば食料品や日用品の値段にも乗ってくるし、中国ゼロコロナ解除による需要回帰はサプライチェーン全体を通じてインフレ圧力を押し広げる可能性がある。「原油の話は自分に関係ない」と思っていた人ほど、そのうち家計の中に気づくかもしれない。

この先どうなる

IEAロシア生産削減の影響が長期化する一方、中国の需要回復ペースが鍵を握りそうだ。仮に夏場の需要が予測を上回れば、1バレル90ドル台に向かうシナリオもアナリストの間では否定されていない。OPECプラスが増産に動くかどうかも焦点になってくるが、サウジアラビアをはじめとした産油国は高値維持に傾きやすい立場でもある。原油価格急騰が一時的な話で終わるか、長い夏になるかは、北京の経済指標を追い続けるしかないだろう。