Manus AI買収阻止——その一報が出た瞬間、「これは単なる取引の失敗じゃないな」と思った。Bloombergが報じたのは、MetaがAIスタートアップ「Manus」へ仕掛けた20億ドル規模の買収を、中国当局が横から止めたという話だ。拒否したのはManusの創業者でも投資家でもなく、北京。それが今回の最大のポイントだった。

Manusとは何者か——Metaが20億ドルを出そうとした理由

Manusは2025年初頭に突如として世界の注目を集めた中国発のAIスタートアップ。特徴は「自律型AIエージェント」技術で、人間が指示を出さなくてもタスクを連続的に判断・実行できる点にある。要するに、ChatGPTが「答える」ツールだとすれば、Manusは「動く」ツールに近い。

MetaがZuckerbergの旗のもとで自律型AI戦略を加速させようとしていた文脈を考えると、Manusの獲得がいかに魅力的だったかは想像に難くない。買収が成立していれば、Meta AIの開発ロードマップは数年単位で前倒しになっていた可能性がある。

China Blocks Meta's $2 Billion Acquisition of AI Startup Manus — Bloomberg(2025年4月27日)

ところが北京は、それを許さなかった。米中テック冷戦という言葉はすでに手垢がついているけれど、今回の介入はその実態をかなりクリアに可視化している。半導体の輸出規制や通信インフラの排除とは違い、「自国企業のM&Aそのものを国家が止める」というのはかなり直接的な手の出し方だ。

「国家の資産」になったAI——Meta中国AIエージェント争奪戦の構図

今回の件で浮かび上がるのは、中国がAIモデルや関連技術を、すでに安全保障上の戦略資産として扱っているという現実だろう。かつて中国当局が海外企業の国内展開を規制するケースは多かったが、自国スタートアップの海外売却を止めるという方向の介入は、また別の話になってくる。

米中テック冷戦はこれまで、主にハードウェア(半導体・通信機器)とプラットフォーム(TikTok・WeChat)の領域で戦われてきた。しかし今回の動きを見ると、戦線はすでに「AIモデルそのものの所有権」にまで拡張されているらしい。Manusのような自律型AIエージェント技術が次世代の競争軸になると、北京も読んでいるということだ。

Metaにとっては痛手だが、同時に今後の買収戦略の地図も書き換わる。中国発のAI技術を買いに行っても、国家レベルで壁が立つ——そういう前提でゲームを組み立てるしかない局面になってきた。

この先どうなる

Manusがこのまま中国国内で独自成長を続けるのか、あるいは別の形で国際展開を模索するのかは、まだ見えていない。ただ、北京が「手放さない」という意思を示した以上、欧米の大手テック企業が中国のAIスタートアップにアプローチするハードルは、今後さらに上がると見ておくのが現実的だろう。Metaが次にどこを狙うか——そちらも同時に注目しておきたい。