ロシア北朝鮮相互防衛条約が署名された瞬間、1961年以来63年間、事実上の死文書だった軍事同盟が蘇った。プーチン大統領と金正恩総書記が結んだこの協定、一言でいえば「どちらかが攻撃されたら、もう一方が軍事支援する」という約束だ。冷戦時代の遺物が現代の戦場に合わせてアップデートされた、ということになる。

北朝鮮が渡した100万発、ロシアが返す「技術」

この条約が唐突に見えて、実は長い取引の結末だったらしい。北朝鮮がウクライナ侵攻以降にロシアへ供与したとされる砲弾は推定100万発超、さらに弾道ミサイルも含まれると複数の情報機関が指摘している。消耗戦で砲弾が枯渇しかけていたロシアにとって、これは文字通り命綱だった。

問題は「何で返すか」だ。ロシアが持っていて北朝鮮が欲しいもの——答えはほぼ一つに絞られる。核弾頭の小型化技術や大陸間弾道ミサイルの再突入技術、そして偵察衛星の打ち上げ支援。実際、北朝鮮は2023年に偵察衛星を打ち上げており、ロシアの技術協力があったとも報じられている。核不拡散条約(NPT)の枠組みが、事実上スルーされている格好だ。

「ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は、相互防衛条項を含む包括的戦略パートナーシップ協定に署名した。これにより、一方が攻撃を受けた場合、もう一方は軍事支援を提供する義務を負う。」(AP通信)

プーチン×金正恩の首脳会談を経て文書に落とし込まれたこの条項、法的拘束力がどこまであるかは今後の焦点になりそうだ。ただ、紙に書いて署名してしまった以上、「知らなかった」は通らない。

ウクライナ戦線と朝鮮半島が「同じ戦争」になる日

NATOの参謀たちが最も嫌がるシナリオが、これで一段と現実味を帯びてきた。条約が機能するなら、朝鮮半島で軍事衝突が起きた場合、ロシアが介入する根拠ができる。逆に、ウクライナ戦線でNATOが直接関与を深めれば、北朝鮮が「同盟国への攻撃」と解釈して動く口実になり得る。欧州とインド太平洋の安全保障が、同じ条文で縛られた形だ。

韓国と日本にとってはさらに切実だろう。北朝鮮弾道ミサイルの精度と射程がロシアの技術支援で上がるなら、在日米軍基地や韓国の主要都市が射程に入る計算が変わってくる。米軍のインド太平洋軍が増強を急ぐ背景には、こういった連鎖の可能性がある。

この先どうなる

当面の注目点は三つある。一つ目は、ロシアが実際にどの技術を、どの速度で移転するか。IAEA(国際原子力機関)や各国情報機関の監視が強まるのは確実だ。二つ目は、韓国の対応。ソウルはこれまで「ウクライナへの殺傷兵器提供はしない」と慎重だったが、条約署名を受けて方針を見直す可能性が出てきた。三つ目は、中国の立ち位置。北朝鮮の後ろ盾だった中国が、ロシアとの急接近をどう受け止めるか——北京が静観を続けるなら、この三角形はより不安定になる。条約という紙一枚が、複数の戦線を同時に動かし始めているのは間違いなさそうだ。