フィリピン船員派遣停止の通達が、海運業界に静かな衝撃を走らせている。Bloombergが報じたところによると、フィリピン政府は国内の船員派遣代理店に対し、ペルシャ湾への新規派遣を止めるよう求めた。世界の商船船員のおよそ25%をフィリピン人が占めるという数字を知ると、この一手がいかに重いか見えてくる。
ホルムズ海峡で足止め中の数千人、交代要員が来なくなる
今、ホルムズ海峡の奥側には交代を待ち続けている船員が数千人規模でいるとされる。乗組員の疲弊は積み重なる一方で、そこへ今回の停止通達が重なった格好だ。
「フィリピンは船員派遣代理店に対し、自国民をペルシャ湾へ送ることを停止するよう通達しており、ホルムズ海峡の奥で足止めされている数千人の船員の交代をさらに困難にしている」(Bloomberg報道より)
交代要員が来ないということは、乗り続けるか船を離れるかの二択を迫られるということ。どちらに転んでも、運航の安全余力は削られていく。ペルシャ湾リスクが高まる中での判断としては、フィリピン政府の論理は理解できる。ただ、その副作用は小さくない。
世界の原油輸送20%が通る海峡で、人の問題が浮上
ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過する航路だ。機雷や攻撃への警戒が続く中で、船員不足という人的要因まで加わってくると、海上輸送の足元がじわじわと崩れていく。タンカーが通れなくなるシナリオではなく、乗る人間がいなくなるシナリオ——そちらの方が、現実味を帯びてきた。
ホルムズ海峡の海運危機がエネルギー価格や食料輸送のサプライチェーンへ波及するとすれば、その引き金は兵器よりも「人の疲弊」かもしれない。
この先どうなる
フィリピンに続き、他の船員供給国が同様の判断に動くかどうかが次の焦点になりそうだ。インドネシア、インド、ミャンマーもアジア圏の主要供給国として名が挙がる。各国が自国民保護を優先する流れが連鎖すれば、ペルシャ湾リスクは人材面からも海運全体を締め付けていく。フィリピン船員派遣停止が「始まり」に過ぎなかったと後から振り返る展開も、十分ありえる。