AIチップ輸出規制の網が、また一段と絞られようとしている。バイデン政権が検討しているのは、これまで規制の対象外だった中・低性能チップへのライセンス義務付け。つまり「高性能だけ封じれば十分」という前提が、すでに崩れていたということらしい。
エヌビディアを封じても、中国は調達し続けた
米国はこれまで、エヌビディアのA100やH100といった高性能GPUを中心に輸出規制を段階的に強化してきた。ところが中国側はその都度、規制水準ぎりぎり手前のチップや、性能を意図的に落とした代替品を調達するという手を使ってきた。いわば「規制の輪郭を測りながら、その外側をすり抜ける」動きを続けてきたわけだ。
今回の動きはそこへの直接的な対応にあたる。ロイターが複数の政府関係者の証言をもとに報じたところでは、現行ルールの対象外チップに対してもライセンス取得を義務付ける方向で検討が進んでいるという。
「バイデン政権は、現行規則の対象外となっている一部チップの輸出にライセンスを義務付けることを含め、中国のAIチップへのアクセスをさらに制限することを検討していると、複数の関係者がロイターに語った。」
ライセンス義務化が実現すれば、企業側は出荷のたびに政府の審査を通す必要が生じる。事実上の輸出停止に近い運用が可能になるため、抑止力としての意味合いは小さくない。
半導体デカップリング、ここまで来たか
今回の動きを「単なる規制強化」と見ると少し視野が狭くなる。背景にあるのは、AIの軍事・経済両面への波及だ。大規模言語モデルの学習から、自律型兵器システムの制御、金融市場の高速取引まで、チップの処理能力は直接的な国家競争力に結びついている。
米中技術冷戦という言葉自体はすでに使い古された感があるけれど、今回の規制拡大は「高性能チップ」という一点突破から、チップ全体を包囲する面的な戦略への転換を示唆している。半導体デカップリングが、ある意味で完成形に近づきつつあるともいえる局面だ。
日本やオランダなど同盟国への圧力を通じた多国間の輸出規制協調も並行して進んでいる。中国としても手をこまぬいているわけではなく、華為(ファーウェイ)や中芯国際(SMIC)を軸とした国産化路線を急いでいるが、最先端プロセスでの自給自足には相当の時間がかかるとみられている。
この先どうなる
バイデン政権の任期は残りわずかで、今回の規制強化が正式発動されるかどうかは政治日程との兼ね合いもある。ただ、次期政権がどちらになろうと、対中チップ規制を緩和する方向に動く可能性は低いというのが大方の見立てだ。むしろトランプ政権が返り咲く場合、関税と規制を組み合わせたより荒っぽいアプローチが来るかもしれない。
中国側の反撃として注目されているのが、レアアース・レアメタルの輸出制限。半導体製造に欠かせない素材を握っているという逆の切り札だ。チップをめぐるこの応酬がどこで落ち着くのか、もう少し追いかけてみたいところではある。