アザワド解放戦線(FLA)が北部要衝キダルの「解放」を宣言した週末、マリの安全保障の前提が一夜にして崩れ落ちた。ロシア・アフリカ軍団はSNSへの投稿で現地を離れたことを認め、撤退は既成事実となった。フランス軍を追い出したあと「ロシアがいれば大丈夫」とみせていた軍事政権の計算が、ここまで外れるとは思っていなかったんじゃないか。
国防相が爆死、キダルが陥落──週末48時間に何が起きたか
土曜日の朝、首都バマコ近郊カティの国防相官邸に自爆トラックが突っ込んだ。サディオ・カマラ国防相の死亡が伝えられ、同時にバマコ、中部セバレ・モプティ、北部ガオ・キダルで爆発と銃撃戦が相次いだ。これだけの地点が同時に火を噴くには、かなり精緻な連携がなければ無理な話で、FLAとイスラム武装組織JNIM(ジャマーアト・ヌスラト・アル=イスラーム・ワル=ムスリミーン)が役割を分担したとみられている。北部の都市攻略はFLA、各地への陽動・同時攻撃はJNIM、という分業だったらしい。
キダルではマリ軍とロシア・アフリカ軍団が包囲され、激戦の末に撤退を余儀なくされた。アフリカ軍団はワグネルの後継組織で、マリ政府が2023年にフランス軍を追い出した後、代替の「盾」として招き入れた部隊だ。その部隊が自らSNSに「現地を離れた」と投稿したのは、言い訳にもならない敗北宣言に等しかった。
「ロシア軍が永久撤退に合意した。キダルは今や解放された」──アザワド解放戦線(FLA)、日曜日の声明より
FLAはトゥアレグ系民族が多く住む北部地域の独立国家「アザワド」樹立を目指す組織で、2012年にも一時キダルを制圧した経緯がある。12年越しの「再奪還」という見方もできる。
ロシア頼みの3年間、それでもサヘルの地図は書き換わる
マリ軍事政権がフランスと決別したのは2022年。その後に入ってきたロシア・アフリカ軍団は兵力・装備ともに限定的で、広大なサヘルの砂漠地帯を制圧するには最初から無理があったとも言える。マリとブルキナファソ、ニジェールが組む「サヘル同盟国連合(AES)」は対仏感情で結束しているが、実際の治安維持能力は別の話で、今回の同時多発攻撃はその弱点を一気に突いた格好だった。
キダルはサハラ砂漠南縁に位置する交易・軍事の要衝で、ここを押さえることは北部全域への影響力を意味する。FLAにとっては象徴的な勝利であり、JNIMにとっても政府軍と外国部隊の弱体化を世界に見せつける機会になった。二つの組織の利害は必ずしも一致しないが、「マリ政府を追い詰める」という一点で今回は手を組んだ形だ。
この先どうなる
ロシア・アフリカ軍団がキダルから撤退したことで、マリ軍事政権は「外部の力で安定を保つ」という戦略の見直しを迫られる。ロシアが追加部隊を送り込むのか、政権が外交的な落とし所を探るのか、あるいはFLAとの交渉テーブルに着くのか──選択肢はどれも茨の道だ。JNIMが各地での攻勢を続ければ、政権の支配域はさらに縮小しかねない。サヘル地帯の勢力図は今まさに動いていて、次の一手が出るまでに時間はないとみられている。バマコの軍事政権がこの週末をどう総括するか、その答えが出るころには、また別の戦闘が始まっているかもしれない。