ホワイトハウス特派員晩餐会の最中、ワシントン・ヒルトンのボールルームに銃声が轟いた。2500人がテーブルの下に倒れ込み、誰も声を上げられない数分間が続いたという。
失明した記者が「半自動小銃」と即断した5分間
BBC北米担当主任特派員のゲイリー・オドノヒューは、ちょうどナイフとフォークを置いたところだった。
「音を聞いて、二度確かめた。そしてすぐに気づいた——これは半自動小銃が放つ、あの低い轟音だ。目が見えない私は音に集中する。そしてガラスの砕ける音が聞こえた」
視覚を持たない彼にとって、音は唯一の情報源だった。隣にいた同僚が床へ飛び込む頭の動きを感じた瞬間、自分もそれに続いた。本能と経験が体を動かした、という感じだったらしい。
テーブルの下で5〜10分。誰かが廊下からボールルームへ走り込んでくるかもしれない——そんな最悪のシナリオを全員が頭に浮かべながら息を殺した。外からは逃げ込む人々が室内へ雪崩れ込んでいたとの証言もある。パニックの連鎖が、情報の判断をさらに困難にしていた。
バトラーから1年未満、また「あの場所」で
オドノヒューは2024年7月のバトラー演説台上での狙撃にも居合わせていた。トランプ大統領が数センチ差で命を落とさなかったあの夜の記憶が、今回も頭をよぎったと明かしている。
ワシントン・ヒルトン銃撃の発生場所は、大統領が出席する公式行事の会場だ。報道機関の幹部、政治家、各国の外交関係者が一堂に会する場所でもある。それだけに、今回の事態は単なる「発砲事件」に収まらない側面がある。
大統領警護失敗という言葉がSNSで一気に広がったのも、バトラーの記憶が生々しく残っているからだろう。シークレットサービスは現在も詳細を調査中とされているが、権力が集中する場のセキュリティがいかに脆いか、改めて可視化された格好になった。
この先どうなる
今後の焦点は大きく二つ。一つは今回の発砲が内部犯行だったのか、外部から侵入したのか——捜査の結論次第で、イベントセキュリティの見直し範囲が大きく変わる。もう一つは、ホワイトハウス特派員晩餐会という「開かれた場」の存続問題だ。報道の自由と権力へのアクセスを象徴する場を守るために、どこまで管理を強化するか。締め付けすぎれば、守るはずの価値を自分たちで壊すことになる。シークレットサービスと主催側の判断が、今後の晩餐会のあり方を決めることになりそうだ。