イラン制裁の網が、今度は中国企業40社以上を直撃した。米政府がイラン産原油の密輸に関与したとして、中国拠点の製油所1社と海運業者40社に制裁を発動したとAP通信が報じた。標的は「シャドーフリート」——制裁逃れ専用に組まれた影の船舶網だ。
40隻の「幽霊船」が運んでいたもの
シャドーフリートとは、旗国や船主を巧みに偽装しながら制裁対象国の原油を運ぶ船舶ネットワークのこと。追跡が難しく、保険も通常の市場外で調達される。ロシアのウクライナ侵攻後に一気に知名度が上がったが、イラン産原油の輸送でも長年使われてきたとされる。
米国がこの網を締め上げようとする理由は明快だった。イランの石油収益は、核開発とミサイルプログラムの主要な資金源とみられており、原油の裏ルートを断つことが非核化圧力の柱になっている。
「米国は、米国の規制に違反してイラン産石油を輸送したとして、中国を拠点とする石油精製所と40の海運業者に制裁を科した」(AP通信)
今回の制裁が動かした数字が「40」という点も見逃せない。単独の企業や船1隻ではなく、ネットワークごと凍結しようとする規模感が透けて見える。
北京はなぜ反論できないか、でも反論する
中国企業が名指しされたことは、米中関係に新たな摩擦をもたらすのは確実だろう。北京はこれまで、イランとのエネルギー取引を「主権的な経済活動」と位置づけてきた。制裁への服従を求められること自体、内政干渉と映るわけだ。
ただ、反論の難しさもある。制裁対象となった取引は「米国の規制違反」として認定されており、ドル決済システムや米国市場へのアクセスを人質にとった実効性の高い手法だ。北京が声明を出しても、実際に制裁をかいくぐるコストは上がっていく。
ホルムズ海峡周辺ではもともと緊張が続いており、タイミングも敏感だった。原油の裏ルートが絞られれば、供給に神経質な市場が反応する可能性もある。
この先どうなる
制裁が機能するかどうかは、抜け穴探しとのいたちごっこにかかってくる。過去の例を振り返ると、シャドーフリートはロシア制裁でも即座に代替ルートを見つけ、完全な遮断には至らなかった。中国企業が名指しされた分、今回は政治的プレッシャーが増す一方、北京が非公式の支援を続ける動機も消えない。米大統領選後の対中政策の方向性とも絡み、次の一手が注目される局面だ。制裁網が本当に機能するかは、今後数週間の原油フローのデータが答えを出す、といったところかもしれない。