ネタニヤフ汚職裁判が、また新しい局面に入った。イスラエルのヘルツォグ大統領が、ベンヤミン・ネタニヤフ首相への恩赦付与を現時点では行わない判断を下した——そう報じたのはニューヨーク・タイムズで、大統領府当局者の言葉として伝えられた。恩赦という「出口」が塞がれた今、残された道は司法取引による調停になるという。

収賄・詐欺・背任、三つの罪が首相に重なる

ネタニヤフ首相が起訴されたのは2019年のこと。収賄、詐欺、背任の三罪で、裁判はすでに5年以上が経過している。これほど長期化した理由のひとつが、現職首相という立場——公務の多忙を理由に審理が繰り返し中断されてきた経緯がある。

恩赦が実現していれば、有罪判決なしに事件そのものを葬れた。大統領にはその権限がある。だが今回、ヘルツォグはその政治的圧力に応じなかった。

「イスラエルのイサク・ヘルツォグ大統領は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の汚職事件に関する恩赦を現時点では付与しないことを決定し、代わりに調停を求める方針だと当局者らが述べている。」(ニューヨーク・タイムズ)

「調停を求める」という表現が気になった。司法取引は有罪を認める代わりに刑罰を軽減する仕組みだが、首相がそれを受け入れるかどうかは別の話で、交渉が始まったとしても折り合いがつくかどうかは読めない。

ガザ停戦交渉の最中、首相の足元が揺れる

タイミングが絶妙に悪い、と感じた。イスラエルは現在もガザ停戦交渉の中心に立ち、ネタニヤフ首相が意思決定の核にいる。汚職裁判の行方が外交判断に影を落とすと指摘する声は以前からあったが、恩赦拒否という明確な判断が出たことで、その不安定さが改めて可視化されたかたちだ。

ヘルツォグ大統領自身は儀礼的な役職で、直接の政策決定権は持たない。それでも、恩赦を拒んだという事実は国内に重く響く。連立政権内の右派勢力が司法取引を「裏切り」と受け取る可能性もあり、政権の結束にひびが入るシナリオも否定できないらしい。

この先どうなる

焦点は二つ。ひとつは、司法取引交渉が本当に始まるかどうか。ネタニヤフ側がテーブルにつくとは限らないし、つかないまま裁判を引き延ばし続ける選択肢も残っている。もうひとつは、国内政局への波及だ。支持基盤の一部が離反すれば、ガザ政策を含む政権の意思決定が鈍化する可能性がある。ヘルツォグ大統領の「拒否」は、ひとつの事件の話だけで終わらなさそうだ。