スティーブ・ウィトコフは、パキスタン行きの便に乗れなかった。トランプ大統領が土曜日、特使ウィトコフと義理の息子ジャレッド・クシュナーのイスラマバード訪問を直前でキャンセルしたのは、イランのアラグチー外相がパキスタン側との会談を終えて席を立った、ほぼその直後だった。
「電話一本かければいい」とトランプが突き放した理由
キャンセルの理由としてトランプが挙げたのは、イラン内部の「深刻な内部対立と混乱」。使節団を送っても「時間の無駄」だという判断らしい。その言葉の裏を読むと、イラン側が直接交渉を公式に否定したことへの反発があったんじゃないかとも見える。
ホワイトハウスは前日の金曜日、「イランは話したがっている」と訪問を発表していた。ところがイラン側は「直接会談の予定はない」と即座に否定。この食い違いが、わずか24時間でのU ターンにつながった格好だ。
「イランが話し合いを望むなら、電話一本かければいい」― ドナルド・トランプ大統領(BBC報道より)
アラグチー外相はイスラマバードでの会談後、「米国が本当に外交に真剣かどうか、まだわからない」と述べた。お互いに「相手が先に動け」と言い合っている状況で、仲介役パキスタンがどこまで踏み込めるかが今後の焦点になりそうだ。
ホルムズ海峡停戦と「5分の1」の石油が揺れている
今回の交渉決裂で最も神経をとがらせているのは、エネルギー市場かもしれない。世界の石油供給の約5分の1が通過するホルムズ海峡では、2月に米・イスラエルが軍事行動を開始して以降、イランが通航制限を続けている。対する米国は海軍プレゼンスを増強し、イランの石油輸出を封じ込める構えを維持中。
イラン核協議をめぐるパキスタン仲介のルートが詰まった今、この対立構図をほぐす別の糸口は見えにくい。トランプは「停戦は続く」とも言っているが、直接交渉が遠のいた状態での停戦延長は、綱渡りに近い。ニュースサイト「Axios」の取材では、「戦争再開を意味するか」と問われ、「いや、まだそこまでは考えていない」と答えたという。この「まだ」という一言が少し引っかかる。
この先どうなる
交渉ルートが一度閉じたからといって、外交が完全に終わったわけではない。イランには経済制裁と海上封鎖による圧力がじわじわ効いており、国内の「内部対立」がトランプの言う通りなら、硬軟どちらの路線をとるかでイラン側が割れる可能性もある。パキスタンの仲介チャンネル自体はまだ生きており、水面下の接触が続くかどうかが当面の見どころだ。ホルムズ海峡停戦の次の期限が近づくタイミングで、また状況が動くかもしれない。