EU相互防衛条項が「NATOの代わりになる」という期待が欧州で浮上しているが、調べれば調べるほど、その期待には根拠が薄いとわかってくる。リスボン条約第42条7項には確かに「加盟国が武力攻撃を受けた場合、他の加盟国は援助と支援の義務を負う」と書かれている。ところが専門家たちが口を揃えて言うのは、「条文と抑止力は別物だ」ということだった。
NATOとの差は「3つの欠落」で見えてくる
NATOが持っているのに、EUが持っていないものが三つある。統合軍指揮系統、核抑止力、そして即応部隊だ。
NATOの場合、加盟国の軍が平時から共通の指揮体制のもとで訓練し、有事には数日以内に展開できる仕組みが整っている。EUにはそれがない。各国軍はあくまで各国政府の指揮下にあり、「集団的に動く」には毎回、政治的な合意形成が必要になる。27カ国が足並みを揃えるまでに、どれだけ時間がかかるか——想像するだけで重くなる。
核抑止力についても同様だ。フランスは独自の核を持つが、それはEUの資産ではなくフランス国家の資産。ドイツをはじめ多くの加盟国は核を持たず、NATOの「核の傘」に依存してきた経緯がある。
「EU加盟国には、互いを守るほとんど知られていない義務が存在する。しかし専門家たちは、それはNATOの代替にはならないと警告している。」(The New York Times, 2026年4月24日)
この一文が、現状をよく表している。「義務がある」と「実際に守れる」の間には、埋めるのに数十年かかるかもしれないギャップがある。
防衛費GDP比3%超——フランス・ドイツが走り出した理由
トランプ政権がNATOへの関与を事実上縮小させる姿勢を見せたことで、欧州各国の防衛費議論は一気に加速した。従来の目標はGDP比2%だったが、今や3%超を求める声が各国政府から出てきている。
フランスとドイツが主導する欧州防衛同盟構想は、その流れの中で生まれたものだ。共同調達、共同訓練、共同の指揮体制——絵としては理にかなっている。ただ、加盟27カ国の軍事統合には法的・政治的な障壁が厚く残っており、「構想」が「実力」に変わるまでには相当な時間がかかりそうだ。ハンガリーのような親ロシア的な加盟国が一票を持っている現実も、意思決定を複雑にしている。
欧州防衛同盟という言葉が公式の議題に上るようになったこと自体は変化のサインだが、言葉が動き出してから実際の抑止力が生まれるまでのタイムラグを、複数の安全保障専門家が問題視しているらしい。「危機はスケジュール通りに来ない」という至極当然の話が、今は笑えない重みを持っている。
この先どうなる
欧州防衛同盟の具体化には、少なくとも5〜10年単位の制度整備が必要との見方が多い。その間、NATOへの依存度を急に下げることはできず、米国の出方次第で欧州の安全保障環境は大きく揺れる。防衛費の増額は各国議会で摩擦を生み、有権者の反発も避けられないだろう。リスボン条約第42条7項が「本当に機能する条項」になる日は来るかもしれないが、今はまだ、条文が一人歩きしているだけ——そう見えてしまうのが正直なところだ。