フォークランド主権が、同盟国を黙らせるための取引カードに使われようとしていた——そんな内容のメールが、米国防総省の内部で回覧されていたらしい。ロイターが報じたそのメールには、イランへの軍事行動を支持しなかったNATO加盟国に対する複数の「制裁オプション」が列挙されており、フォークランド諸島をめぐる英国の主権主張を見直すという選択肢が、その一つとして記されていた。
スペイン除名、フォークランド——NATOペナルティの全容
問題のメールに含まれていたオプションは、フォークランドだけではなかった。スペインのNATO除名検討も並んで記されていたとされる。つまりイラン戦争への協力拒否に対し、「同盟の特典を剥奪する」という形で揺さぶりをかける構図だ。
ペンタゴンの報道官はメールの存在について明言を避けたが、こんなコメントを残している。
「フォークランド諸島はかつて、英国海外領土として留まることに圧倒的多数で賛成票を投じており、我々は常に島民の自決権を支持し、主権が英国にあるという事実を堅持してきた」——英首相官邸報道官
首相官邸側の反論は素早かった。ただ、この声明が「主権は英国にある」を繰り返すだけだったことが、逆に動揺の深さを示しているとも読める。NATOペナルティという概念が公式文書に登場したこと自体、これまでになかった事態だったからだ。
1982年の戦争が今も刺さる理由
英国にとってフォークランドは、単なる南大西洋の離島じゃない。1982年、アルゼンチンが侵攻し、英国が74日間の戦争で奪還した場所だ。戦死者は英国側だけで255人。サッチャー政権の威信をかけた戦いが、島の記憶に刻まれている。
それをトランプ政権が「カード」として持ち出したとしたら、英国内の反応が激しくなるのは当然で、実際に与野党を問わず批判の声が上がった。米英同盟亀裂という言葉が、ついにリアルな文脈で使われ始めた瞬間でもある。
一方でアルゼンチン側は静かだ。少なくとも今のところは。ミレイ政権はトランプとの関係を重視しており、この問題で積極的に動くことへの計算が働いているとみられる。
この先どうなる
BBCはメール原文の確認ができていないと明言しており、内容の全貌はまだ不透明なままだ。ただ、ペンタゴン報道官が「同盟国が約束を果たすよう信頼できる選択肢を確保する」と言い切った点は見逃せない。これは否定ではなく、むしろ肯定に近いトーンだった。
NATO加盟国への圧力手段として「主権問題」や「除名」が公然と議論されるなら、英国だけでなく欧州全体が対応を迫られることになる。米英同盟亀裂がさらに深まるのか、それとも外交的な幕引きが図られるのか——次の動きは、英国のスターマー首相がトランプとどう向き合うかにかかっている。フォークランドが再び「戦場」になるとすれば、今度は砲弾ではなく交渉テーブルの上かもしれない。