NATO除名という言葉が、同盟国の間で飛び交う日が来るとは誰も思っていなかったはずだ。米国防総省を発信元とするメールがリークされ、ロイターが報じた内容は「イラン作戦への支持を拒んだ同盟国を罰する措置として、スペインをNATOから除名しうる」というもの。金曜の朝、キプロスで開かれていたEUサミットの空気は一変した。
サンチェスが「動じない」と言わざるを得なかった理由
EUサミットの会場に到着したスペインのペドロ・サンチェス首相は、待ち構える記者団に「心配はない。我々はNATOへの義務を果たしている」と短く答えた。落ち着いて見せようとする言葉ほど、その場の緊張を映し出すことがある。
問題のメールは、米・イスラエルによるイラン作戦への協力を渋った同盟国に対し、NATOでの地位を利用して圧力をかけることを示唆していた。スペインはその「渋った国」の筆頭格として名指しされた格好だ。
「An email, originating from the US Pentagon and first reported by Reuters on Friday had leaked, suggesting measures for the US to punish allies it believed had failed to support the US-Israel campaign against Iran. The email said the US could seek to suspend Spain from Nato over its stance.」(BBC報道より)
ペンタゴン・スペイン・NATO除名という三つの単語が並んだ瞬間、欧州の首脳たちは反応した。オランダのヘイク・スホーフ首相をはじめ、キプロスに集まっていた各国リーダーが即座にスペイン支持を表明。EU内での対米批判としては、かなり直接的な局面になった。
「除名」は法的にほぼ不可能、それでも震えるNATOの土台
ここで調べてみると、NATO条約には加盟国を除名する規定が存在しない。これは事実として押さえておきたい。また、仮にスペインを主要な文民・軍事ポストから排除しようとする場合、全加盟国の全会一致が必要になる。31カ国すべてが賛成しなければ動かない仕組みだ。欧州各国が反発している現状では、現実的にはほぼ不可能に近い話らしい。
ただ、「実現できないから問題ない」で済む話でもなかった。同盟国に向けて「除名」という言葉を使ったこと自体、NATOという枠組みへの信頼を揺るがすメッセージになりうる。欧州側がここまで素早く反応したのも、その文書の「言葉の重さ」を意識してのことだろう。
EU内では、ウクライナ危機が4年目に入り、エネルギー問題も続く中、今回のリーク文書がさらに対米感情を複雑にした。「会議のたびに新しい危機に乗っ取られる」と、ある外交筋は苦笑い交じりに語ったという。
この先どうなる
ペンタゴンがこのメールの内容を正式に認めるか否か、まずそこが焦点になる。否定すれば外交的なダメージは多少和らぐかもしれないが、リーク自体の事実は消えない。欧州がこれだけ素早く結束した以上、米国がNATOを外交カードとして使う姿勢への不信感は、しばらく尾を引くとみていい。サンチェス首相がどこまで「平静」を保てるか、スペイン・サンチェスの立場は国内外の注目を集め続けそうだ。NATOという枠組みの外から眺めると、同盟の均質性がじわじわと削られているように見えてくる。