AIチップ需要がここまで株式市場の地図を塗り替えるとは、正直、半年前には想像しにくかった。Bloombergが報じたところによれば、台湾と韓国の株式市場がグローバルエクイティランキングで上位圏に浮上した。牽引役はもちろん半導体セクター。生成AIが爆発的に普及するなかで、高性能チップへの需要が文字通り止まらない状況が続いている。
TSMCとSKハイニックス、2社で世界を押さえた構図
台湾側の象徴はTSMC。世界の先端ロジック半導体の製造能力の大半を握るファウンドリ企業で、NVIDIAをはじめとするAIチップ設計会社のほぼすべてが製造を委託している。TSMC株価はその需要を直接映す鏡といってもいい。調べてみると、同社の時価総額はすでにアジア株の中でも別格の水準にある。
韓国側では、サムスン電子とSKハイニックスが存在感を発揮している。とりわけSKハイニックスが製造するHBM(高帯域幅メモリ)は、AI演算に不可欠なパーツとして需要が急増中。メモリといえば価格変動が激しい「コモディティ商品」というイメージがあったが、AI向け高付加価値品は話が別らしい。
「AIチップ急騰が台湾・韓国を世界株式ランキングで上位に押し上げた」――Bloomberg、2026年4月25日
この2カ国が事実上、世界のAIインフラ製造を寡占している。チップを作れる国が限られているという現実が、株価に素直に出ているわけだ。
台湾海峡リスクという見えにくいコスト
ただ、ここで引っかかったのが地政学の問題だった。台湾半導体地政学というテーマは、金融市場では「わかっているけど織り込みにくいリスク」として扱われがちだ。台湾海峡で有事が起きた場合、TSMCの生産は一時的にせよ止まる可能性がある。世界のAIチップ供給が一夜で滞るシナリオは、株価の問題にとどまらない。
繁栄の土台が地政学的な断層線の上にある、というのは比喩ではなく地理的な事実でもある。台湾は文字通り、中国との緊張ライン上に位置している。投資家はこのリスクプレミアムをどこまで計算に入れているのか。楽観と懸念が同居したままランキング上位に居続けている状態、といえる。
この先どうなる
AIチップ需要は2026年以降もしばらく衰えない見通しが多い。クラウド各社の設備投資計画は依然として積み上がっており、TSMCの先端プロセスへの予約待ちは続いているとされる。SKハイニックスのHBM生産能力の拡張も進行中で、韓国株への資金流入が止まる材料は今のところ見当たらない。
一方で、米中の輸出規制をめぐる応酬が激化すれば、サプライチェーンの再編を迫られる局面も来るかもしれない。台湾・韓国の半導体産業が「AIバブルの恩恵を受けた勝ち組」のままでいられるかは、チップの性能だけでなく、地政学の温度計次第でもある。数字は強い。ただ、地図は変わりうる。