ライシ大統領が乗ったヘリコプターが、消えた。アゼルバイジャンとの国境に近い山岳地帯に墜落したのは2024年5月19日のこと。搭乗していたのはフセイン・アブドラヒアン外相ら政府高官複数名。救助隊は現場へ向かったが、濃霧と険しい地形に阻まれ接触できない状況が続いた。生死不明のまま、時計だけが進んでいった。

ハメネイ後継「最有力」が乗っていた

ライシ師は単なる大統領ではなかった。イスラム共和国の最高指導者アリー・ハメネイ師の後継候補として、国内外で名前が挙がってきた人物だ。強硬派の旗手として2021年の大統領選を圧勝し、核交渉でも西側と真正面からぶつかってきた。その人物が突然、連絡を絶った。イランの権力構造にとってこれは、ただの事故では済まない規模の出来事だった。

同乗したアブドラヒアン外相も、ガザ情勢が燃え上がる中で最前線に立っていた外交責任者。閣僚2人が同時に消えたという事実だけで、イランは事実上の権力空白に放り込まれた格好だった。

「イランのエブラヒム・ライシ大統領が搭乗するヘリコプターが、アゼルバイジャンとの国境近くの山岳地帯に不時着したと国営メディアが報じた。濃霧の中、救助隊は現場への到達に難航している。」(ロイター報道より)

原油市場と核交渉、両方が一夜で揺れた

ライシ大統領不在のニュースが流れた瞬間、市場と外交の両方に緊張が走った。イランは世界有数の原油生産国であり、ホルムズ海峡という世界の原油輸送の要衝を握る国でもある。指導部の空白が長引けば、石油輸出の方針や核合意交渉の行方も宙に浮く。イランヘリ墜落というニュースが単なる事故報道で終わらない理由はここにある。

加えてこのタイミング、中東はガザ情勢でどこもかしこも火がついていた。イランはハマスやヒズボラへの支援国として米国やイスラエルと激しく対立している最中だった。そこにきてのトップ不在。「誰が決断するのか」という問いが、外交筋の間で一気に広がったらしい。

この先どうなる

ライシ師が仮に死亡と確認された場合、イランは60日以内に大統領選を実施しなければならない。後継を誰にするかは、ハメネイ最高指導者が主導することになるが、ハメネイ師自身も85歳を超えており、後継問題は一気に複雑化する。強硬派と改革派の綱引きが再燃し、対外政策の方向性が読みにくくなる局面が続く可能性が高い。核合意交渉については当面、実質的な前進は見込みにくい。中東情勢が落ち着く気配のない中、「イランの次の顔」が誰になるかは、世界がかなり真剣に注目するポイントになりそうだ。