ダニエル・ヤーギンが、これほど踏み込んだ言葉を使うのは珍しい。ブルームバーグのインタビューで彼が口にしたのは「史上最大」という四文字だった。1973年のオイルショックも、1990年の湾岸戦争も、今回のホルムズ海峡封鎖には及ばない——そう位置づけたのだ。プリンストン大学で教鞭を取り、ピューリッツァー賞受賞作『石油の世紀』を著した人物が、比較対象として過去50年の危機を並べてなお「これが最大」と言い切った重さは、軽く流せるものじゃない。

世界の原油2割が止まる——数字で見るホルムズの圧力

ホルムズ海峡の幅は最狭部でわずか33km。しかしこの水路を通過する原油は世界輸送量の約20%、LNGにいたっては世界の12%に上る。日本が輸入する原油の約8割はこの海峡を経由しているとされ、封鎖が長引けばエネルギー安全保障の土台が揺らぐのは数週間の話になる。韓国・インド・欧州諸国も同様で、代替ルートはアラビア半島を迂回するパイプラインのみ——輸送量と速度の両面で限界がある。調べてみると、サウジアラビアの東西パイプライン(EW)の最大輸送量はホルムズを通過する原油のせいぜい1割程度にしかならないらしい。

「ホルムズ危機は史上最大のエネルギー混乱だ」——ダニエル・ヤーギン(Bloomberg、2026年4月)

市場はすでに反応し始めている。エネルギーコストの上昇はサプライチェーン全体に乗り、輸送費・製造コスト・食品価格へと波及する経路が開く。インフレが再燃すれば、利下げを模索していた各国中央銀行の手も縛られる。エネルギー安全保障の問題が、いつの間にか金融政策の問題に化けていく——そういう構図が見えてきた。

ヤーギンが「最大」と言えた理由——1973年との決定的な違い

1973年のオイルショックは中東産油国によるアラブ石油禁輸が発端だったが、当時の欧州・日本はまだ省エネ技術の余地が大きく、需要調整の幅があった。1990年の湾岸危機では米国が戦略石油備蓄(SPR)を放出し、サウジが増産で穴を埋めた。今回はその両方が効きにくいとヤーギンは示唆している。SPRはここ数年の放出で水位が低下しており、サウジの余剰生産能力も過去ほど潤沢ではない。加えて、LNGという新たな変数が加わったことで、影響が天然ガス市場にも同時波及する点が過去の危機とは性格が異なる。ホルムズ海峡封鎖が「原油だけの問題」で収まらないのはそこだ。

この先どうなる

封鎖が継続するシナリオでは、原油価格の上振れとLNG価格の急騰が同時進行し、輸入依存度の高い日本・韓国への打撃は特に大きくなりそうだ。一方で、外交交渉が動き出せば「封鎖解除」のニュースひとつで市場は急落する可能性もあり、ボラティリティは当面収まらない。ヤーギンの発言が持つ意味は、専門家が「最大」と断じた以上、各国政府が平時モードの対応で乗り切れないという警告でもある。日本のエネルギー担当省庁がどう動くか、次の48時間が一つの目安になるんじゃないかと思う。