マドゥロ麻薬密輸起訴の被告に、米国が「自ら凍結した資産」を使わせる——そんな前例のない決定が下された。ニューヨーク連邦裁判所に麻薬密輸の罪で起訴されているニコラス・マドゥロと妻に対し、米当局は制裁・凍結してきたベネズエラ国家資産からの弁護士費用支払いを正式に許可したとBloombergが報じた。これまで一貫して認めてこなかった方針の、突然の撤回だった。

「制裁した資産」で弁護費用——何がそんなに急に変わったのか

米国がベネズエラ資産を凍結してきたのは、マドゥロ政権による民主主義の後退や人権侵害を理由にしたものだった。その資産を、当の被告の弁護に使わせる。矛盾しているように見えるが、法的な手続きとしては「被告の弁護権」を保障するための措置という建前が成り立つ。

ただ、タイミングがいかにも政治的だと感じた。トランプ政権は現在、ベネズエラとの間で複数の外交的接触を試みているとされる。石油利権の再交渉や、米国内に拘束されているベネズエラ人の扱いなど、取引の材料は山積みだ。今回の「資産解禁」は、司法手続きを維持したまま、外交交渉のドアを少しだけ開ける動き——そう読むのが自然じゃないか。

「米当局は方針を転換し、ニコラス・マドゥロとその妻がニューヨークの麻薬密輸事件で弁護を行うにあたり、ベネズエラ資産を弁護士費用に充てることを認めると報じられた。」(Bloomberg, 2025年4月)

起訴を取り下げるわけでも、資産を全面解除するわけでもない。あくまで「弁護費用」という限定的な範囲での解禁。この絶妙な落とし所が、トランプ政権らしいとも言える。

ベネズエラ凍結資産をめぐる「三すくみ」

ベネズエラ凍結資産の問題は、実は三方向の利害がぶつかっている。

まずワシントン。制裁の「信頼性」を保ちながら、外交カードとして使いたい。次にマドゥロ側。起訴を抱えたまま、少しでも米国との関係を改善し、凍結解除の糸口を探りたい。そして国際社会。制裁が外交取引で骨抜きにされるなら、他の制裁体制への信頼も揺らぐ、という懸念がある。

今回の決定は、そのどれも完全には満たさない。米国は「司法は続けている」と言い、マドゥロ側は「資産を取り戻す足がかりができた」と読み、国際社会は「またトランプ流の例外処理か」と受け取る。全員が異なる勝ちを見ている局面、というのが正直なところだった。

この先どうなる

注目点は二つある。一つは、弁護費用の支払い承認が「起訴の取り下げ交渉」への布石になるかどうか。トランプ政権は過去にも、外交的実利のために司法手続きを「道具」として使ってきた経緯がある。マドゥロ案件も同じ道をたどる可能性はゼロではない。

もう一つは、ベネズエラ国内の石油資源へのアクセス問題。米系エネルギー企業の利権回復と今回の資産解禁が連動しているとすれば、次の動きは石油関連制裁の部分緩和かもしれない。起訴という「圧力弁」を持ちながら、外交でじわじわ前進する——トランプ流の二刀流が、ベネズエラ問題でも炸裂しつつある。