ロシア戦時経済が、静かに、しかし確実に綻び始めている。ロシア中央銀行がこのほど利下げへ転換したが、数字を追っていくと「景気刺激」というより「選択肢が尽きた」という色合いが濃くなってくる。

GDP比6%超——軍事支出が経済を食いつぶしている

ウクライナ侵攻が長期化するなか、ロシアの軍事支出はGDP比で6%を超えた。この水準、冷戦期のソ連末期に重なるという指摘もある。戦費が膨らむほど、政府は財政支出を拡大し、市場にルーブルを供給し続けることになる。インフレが高止まりしているのも、そこに理由のひとつがある。

本来ならインフレ抑制のために金利を高く保つべき局面だ。それを知りながら利下げに踏み切ったのだから、中央銀行が純粋に「金融政策の判断」として動いたとは考えにくい。プーチン大統領が側近に「経済を立て直せ」と命じたとも報じられており、政治的圧力が利下げを後押しした可能性はかなり高いとみている。

「相次ぐ利下げは、膨大な戦時支出の重圧のなか、ロシア中央銀行に残された選択肢がいかに狭まっているかを浮き彫りにしている。」(The New York Times)

利下げと財政拡張を同時に進めれば、ルーブルへの信頼がさらに揺らぐリスクがある。中央銀行の独立性が形だけになれば、市場の信認を保つ最後の盾も失いかねない。

原油安と制裁で、エネルギー収入が細っている

ロシア経済を長年支えてきたのは原油・天然ガスの輸出収入だった。ところが西側の制裁に加え、国際原油価格の下落が重なり、その収入が目に見えて細ってきている。

ロシア中央銀行が利下げを選んだ背景には、エネルギー収入の落ち込みを金融緩和でなんとか補おうという意図もあるんじゃないか、と調べていて感じた。ただ、それは根本的な解決にならない。輸出で稼げなければ、いくら金利を下げても外貨は入ってこないからだ。

ロシア戦時経済は今、軍事支出・インフレ・エネルギー安・制裁という四つの重圧を同時に受けている。どれか一つが崩れれば、連鎖する構図がある。

この先どうなる

焦点は二つ。一つは原油価格の行方で、反転上昇すればロシアに一時的な猶予が生まれる。もう一つはルーブル。利下げと財政拡張が続けば、ルーブル安が加速し、輸入物価を通じてインフレが再燃する悪循環に入るリスクがある。ロシア中央銀行利下げが「政策の柔軟性」ではなく「追い詰められた末の決断」だったとすれば、次の一手はかなり苦しい。戦費を削るか、通貨を犠牲にするか——どちらも茨の道だ。