NATO除名規定は存在しない――NATOがBBCにそう明言したのは、ペンタゴン内部のメールが流出した直後のことだった。ロイターが報じた内容によると、米国はイラン攻撃への協力を拒否したスペインをNATOから停止・除名する措置を検討していたという。同盟の亀裂が、内部文書という形でいきなり世界の前に投げ出された格好だ。

スペイン米軍基地2か所を抱えながら、なぜ拒否したのか

スペイン国内には米海軍ロタ基地とモロン空軍基地の2か所がある。それだけの資産を預けながら、スペインのサンチェス首相はイラン攻撃への領土使用を認めなかった。欧州の左派政権が対イラン軍事行動に距離を置くのは珍しくないが、米国側はこれを「裏切り」と受け止めたらしい。

ペンタゴン報道官のキングスリー・ウィルソン氏はBBCにこう述べた。

「NATOの同盟国のために米国がやってきたことすべてにもかかわらず、彼らは我々のために動かなかった。国防省は、大統領が信頼できる選択肢を持てるよう措置を講じる。同盟国がもはや張り子の虎でなく、相応の役割を果たすようにするためだ」

この発言、外交的な婉曲表現とは程遠い。「張り子の虎」という言葉をNATO同盟国に向けて使うのは、相当な強硬姿勢といっていい。

フォークランド諸島領有権カード――英国への圧力は本物か

さらに驚いたのが、英国向けの圧力オプションだ。同じ内部メールには、フォークランド諸島領有権をめぐりアルゼンチン側を支持する選択肢の検討が含まれていたとされる。フォークランド諸島は1982年の英亜戦争以来、英国が実効支配を続けてきた地域で、これを揺さぶるのは「最も近い同盟国」への相当な圧力カードになる。

スペイン米軍基地の問題とフォークランド諸島領有権を同じ文書に並べるというのは、単なる怒りの吐き出しではなく、同盟国を個別に「値踏み」しているようにも読める。英国政府はBBCの問い合わせ時点でコメントを出していなかった。

この先どうなる

NATO除名規定が法的に存在しない以上、スペインへの「除名」は制度上あり得ない話ではある。ただ、米国が持つ実質的な圧力手段――基地の縮小、情報共有の制限、二国間の防衛協力の見直し――はいくらでもある。「規定がないから安全」とはいえないのが現実だ。イラン情勢が今後どう動くかによって、米国が同盟国への締め付けを強めるシナリオは十分残っている。フォークランド諸島領有権カードが実際に切られることはないとしても、「切られるかもしれない」という空気が欧州の外交判断を変えていく可能性は小さくない。