革命防衛隊が、イランの国家権力をそっくり抱え込んだ──ハメネイ師が殺害されてから、最高指導者のポストは空白のまま時間が経過している。神学者の手にあった40年超の統治が、将軍たちの集団指導体制へと移行しつつあるらしい。これを「政変」と呼ぶには、あまりにも静かで、あまりにも計算された動きだった。
革命防衛隊とは何者か──19万人・核・石油を握る影の国家
調べれば調べるほど、革命防衛隊の「規模」に引っかかる。推定兵力は19万人。ただの軍隊ではなく、弾道ミサイル部隊の指揮権、核開発プログラムの管理、さらに国家石油収益の一部まで手中に収めている。イランという国の中に、もう一つの国がある、という表現がぴったりくる。
ホメイニー師が1979年の革命後に設立したこの組織は、もともと「正規軍による反革命クーデターを防ぐ」ための部隊だった。それがいつの間にか、防ぐ側が権力の中枢に座る立場になった。皮肉といえば皮肉だが、イランの歴史を振り返ると、これは偶然じゃなかった気がする。
「アリー・ハメネイ師の殺害により、イランに新たな集団指導体制が生まれ、革命防衛隊がより大きな権力を握ることとなった。」(The New York Times, 2026年4月23日)
ハメネイ後継の議論は以前からあった。後継候補として名が挙がっていたのは、息子のモジュタバー師ら聖職者だったが、蓋を開けてみれば将軍たちによる集団体制という形に落ち着きつつある。「神学者が最終決定権を持つ」というイラン共和国の根幹が、静かに書き換えられようとしている。
核交渉とホルムズ海峡──世界が気にすべき二つの変数
イラン軍事政権化の影響が直撃するのが、核交渉とホルムズ海峡の二点だろう。核合意をめぐる交渉は、相手が「誰の言葉に従うのか」が分からなければ成立しない。聖職者と将軍では、交渉テーブルでの優先順位がそもそも違う。将軍たちにとって核は宗教的な正当性ではなく、純粋な軍事的抑止力として映っているはずで、妥協のラインも変わってくる可能性がある。
ホルムズ海峡については、世界の原油輸送量の約2割が通過するこの水路を、革命防衛隊の海軍部門が事実上コントロールしている。ハメネイ後継が不在の今、その「封鎖カード」を切るかどうかの判断を誰が下すのか──集団指導体制のあいまいさが、最も危険な形で出てくる場面がここかもしれない。
この先どうなる
集団指導体制は、短期的には安定しているように見える。将軍たちは対外的な統一メッセージを発信し、内部の権力争いを表に出さないインセンティブを持っているからだ。ただ、歴史を見ると「軍の集団指導」が長続きした例は少ない。誰かが突出するか、派閥間の亀裂が表面化するか、どちらかの展開が2〜3年以内に来るんじゃないかという見方が多い。核交渉が進むにせよ破綻するにせよ、その結果はハメネイ後継をめぐる内部の力学と切り離せない。中東情勢を追うなら、今のイランは神学より軍事の論理で読み解く必要がある。