EUウクライナ融資900億ユーロが、たった一日で一気に動いた。ハンガリーのオルバン首相が日曜の選挙で敗北し、同じ日にドルジバパイプラインが再び動き始めた。2月から半年近く凍結されていた融資案件が、二つの出来事が重なった瞬間に走り出した格好だ。

オルバンが「待て」と言い続けた半年

融資自体は昨年12月に合意済みだった。それをひっくり返したのがオルバン前首相の拒否権行使だ。ロシアの攻撃でドルジバパイプラインが停止し、ハンガリーとスロバキアへの原油供給が途絶えたことを理由に、2月から「原油が流れるまで融資には合意しない」と突っぱね続けた。

これがそのまま膠着した。EU側がどれだけ議論を重ねても、ハンガリーの拒否権一つで動けない。ウクライナのカチカ副首相が「死活問題だ」と訴えても、状況は変わらなかった。

転機は先週日曜。オルバン氏が16年間握り続けた首相の座を選挙で失った。後継のペーテル・マジャル氏はEUとの関係修復を優先する姿勢を示しており、ブリュッセルとブダペストの関係は一変しそうだ。さらに同日、ウクライナ政府は修復工事が完了したとして、ドルジバパイプラインの送油再開を確認した。

カラスが言い切った「ロシアは勝てない」

EU大使会議はこの状況を受け、融資の予備承認に即座に動いた。第20次対ロシア制裁パッケージも同時に承認している。正式署名はキプロスでの非公式サミットで行われる見通しだ。

「ウクライナはこの融資を切実に必要としており、これはロシアがウクライナより長く持ちこたえることはできないというシグナルでもある」― カヤ・カラスEU外交代表

融資総額900億ユーロのうち3分の2が軍事費へ充てられるという規模感は、EU史上でも異例の戦時財政支援といっていい。ただ、ここで引っかかるのがドルジバパイプライン再稼働の意味だ。ウクライナへの支援を承認しながら、ロシア産原油の通過を条件として認める。欧州は脱ロシアエネルギーを掲げつつ、ハンガリーとスロバキアへのロシア原油供給は今回も維持された。「制裁と購入」が同時進行する状態は、今回の合意でさらに可視化された形だ。

この先どうなる

キプロスでの署名が終われば、900億ユーロは段階的にウクライナへ届き始める。オルバン後のハンガリーがEU内でどう振る舞うかは、今後の対ロシア政策の速度を左右する変数になりそうだ。ペーテル・マジャル新政権がブリュッセルとどこまで歩調を合わせるか、最初の試金石になる。ドルジバパイプラインは今回「条件として使われた」ことが前例になった。次に誰かが同じカードを切ろうとしないとも限らない。欧州の戦時財政は新局面に入ったが、火種はまだ残っている。