米イラン停戦延長が宣言された瞬間、市場が動いたのは株でも債券でもなく、原油だった。トランプ大統領は2026年4月22日、一方的かつ期限なしの停戦継続を発表。ただし和平条約はない。砲声は止まったが、戦争が終わったわけでもない——そういう奇妙な宙吊り状態がいま、「新常態」として固まりつつある。

停戦なのに原油が100ドルから下がらない理由

ブルームバーグ・エコノミクスの地政学分析によれば、この戦況は「長期的な中間地帯」に落ち着きつつあるらしい。交渉は凍結、緊張はくすぶり続け、散発的な衝突がいつ再燃してもおかしくない——そんな状態で市場が「もう安全だ」と判断できるはずがない。

「平和でもなく、だが積極的な戦争でもない。正式合意なき脆弱な停戦、くすぶり続ける緊張、散発的な衝突、そして原油は100ドル近辺——これが新たな常態となりうる。」(Bloomberg Economics)

原油が1バレル100ドル近辺に張り付いているのは、地政学リスクが「解消した」と誰も信じていないから、ということになる。むしろ正式合意がないぶん、リスクプレミアムが剥がれにくい構造になっている。エネルギーコストの高止まりは輸送・製造・食品のコスト全体を押し上げ、インフレ再加速への導火線になり得るという見方が強まっている。

投資家が「戦争でも平和でもない世界」に値段をつける

厄介なのは、このシナリオに前例が少ないことだ。停戦が破れれば原油は跳ね上がる。正式合意が結ばれれば地政学プレミアムが剥落して下落する。だが「何も決まらないまま続く」という第三のケースは、価格モデルに組み込みにくい。ブルームバーグの報道によれば、投資家はいま、まさにこの「値段のつけにくいリスク」への適応を迫られている状態らしい。

中東新常態とでも呼ぶべきこの局面、ポートフォリオの組み方から企業のサプライチェーン戦略まで、じわじわと影響が波及していく可能性がある。派手な爆発がない分、気づいたときには浸透していた——そういう展開が怖い。

この先どうなる

最大の分岐点は「交渉の再開」か「散発的衝突の激化」かだろう。ホルムズ海峡周辺での小競り合いが続けば、原油は100ドルを超えて定着するシナリオもあり得る。一方でトランプ政権が次の外交カードとして正式合意に動けば、原油の急落と地政学リスクの一時的解消が重なる可能性もある。ただ今のところ、どちらの動きも見えていない。「何も変わらない」が続くほど、その後のショックは大きくなりがち——というのが歴史の傾向ではあるけれど。