イラン停戦延長を決めたのはトランプだった。だがその瞬間、テヘランの指導部は「我々が勝った」と内部で共有していたと報じられている。停戦でも勝利、というこの逆説——そこには40%を超えるインフレと、史上最安値に沈むリアルがある。

テヘランの「消耗算数」——制裁慣れの国が時間を武器にするとき

イラン指導部の論理は単純で、だからこそ厄介だ。経済制裁も軍事圧力も「慣れた痛み」として飲み込めるイランに対し、アメリカは国内世論という時計を常に気にしなければならない。

トランプ対イラン交渉の歴史を振り返ると、この構図は繰り返されてきた。イラン側は交渉の席で要求を下げない。むしろ時間が経つほど要求水準を上げてくる。今回の停戦延長をテヘランが「屈服の証拠」と読んだとすれば、次のラウンドで彼らが提示する条件はより強硬になる可能性が高い。

「イランの指導部は、長引く対立においてトランプ大統領よりも自分たちのほうが耐え抜けると信じている。」——The New York Times

ホルムズ海峡の緊張が高まるたびに原油市場は揺れ、それがアメリカ国内の物価と世論に波及する。イランはその連鎖を熟知していて、封鎖チラつかせ戦略をカードとして持ち続けている。

「勝利」の請求書は国民に届く——年率40%超のインフレの現実

ただ、ここで引っかかったのが数字だ。インフレ率は年率40%を超え、リアルは対ドルで史上最安値圏にある。指導部が「勝った」と言っている間も、市民の購買力は静かに削られ続けている。

これは別に珍しい話じゃなくて、権威主義的な政権が対外強硬路線を維持するときの典型的なコストだ。指導部はホルムズ海峡の緊張を外交カードとして使いながら、その緊張が招く制裁強化と通貨安の痛みを国民に転嫁している。「消耗戦に耐えられる」という自信は、指導部が耐えるのではなく、国民に耐えさせるという構造に支えられているともいえる。

テヘランのバザールで物価が上がるたび、一般市民の不満は蓄積される。過去の抗議運動も、その蓄積が弾けたものだった。指導部の「勝利の物語」がどこまで国内で持つのか——そこが次の変数になってくる。

この先どうなる

イラン停戦延長が繰り返されるほど、次の交渉でテヘランの要求水準は上がる公算が大きい。トランプ政権が「もう一歩」と動くたびに、イラン指導部はそれを弱さの証拠として蓄積していく。

一方で、40%超のインフレが続けば国内の政治的圧力は無視できなくなる。指導部が外交で「勝ち続ける」ためには、国民の怒りをどこかへ向け続けなければならない。ホルムズ海峡の緊張は、その意味でも当分下がらないだろう。次の停戦期限がいつ来るか、そのときトランプがどう動くか——それが当面の焦点になりそうだ。