ペロシ台湾訪問から一夜が明けた2022年8月5日、中国政府は米国との対話チャンネルを8分野にわたって一斉に閉じた。軍事ホットライン、気候変動協力、麻薬密輸対策、貿易協議——危機を未然に防ぐための回路が、まとめて遮断されたかたちだ。

軍事ホットラインが消えた日——8分野停止の中身

中国が停止した8分野を並べると、その範囲の広さに少し驚く。軍同士の直通回線、国防省レベルの会談、海上軍事安全保障の協議、気候変動に関する共同作業、麻薬対策協議、貿易交渉、犯罪捜査協力、そして移送・強制送還の手続き。外交的抗議というより、「当面は何も話さない」という意思表示に近い。

特に気になるのが軍事ホットラインの停止だった。偶発的な衝突が起きたとき、まず電話を取るのがこのラインだったはず。それが使えなくなるということは、誤算が誤算のまま転がっていくリスクが上がるってことでもある。

「中国は、ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問への報復として、軍事対話、気候変動協力、貿易協議を含む8分野での米国との対話を停止すると発表した。」(The Wall Street Journal)

WSJはこの状況を「対話なき緊張」と表現している。米中関係の摩擦は今に始まったことではないが、対話のチャンネルを両国が持ち続けてきたのは、冷戦期の米ソ関係から学んだ教訓でもあった。その前提が崩れつつある。

気候変動まで止まった——地政学の人質になった地球課題

米中対話停止の中で、ひときわ目を引くのが気候変動協力の停止だ。米国のジョン・ケリー気候変動特使と中国側の対話は、政治的な対立があっても続けられてきた数少ない例外的なチャンネルだった。それが止まった。

台湾海峡緊張が気候交渉の行方を左右する——そんな事態は、数年前には想定外だったはずだ。地球規模の課題が二国間の政治摩擦に引きずられる構図は、国連気候変動交渉にも影を落としかねない。

米中関係停止の連鎖は、実はこの気候変動の分野が最も長引く可能性があるとも言われている。軍事ホットラインは信頼醸成措置として双方に利益があるため、比較的早く復活するケースが多い。一方、気候協力は国内政治との絡みが深く、「再開」のタイミングが読みにくいからだ。

この先どうなる

米中双方とも、対話停止を「永続的な断絶」とは位置付けていない——少なくとも表向きは。中国側の発表も「報復措置」という言葉を使っており、ペロシ訪問という「きっかけ」が薄れれば、段階的に再開される可能性はある。

ただ、台湾海峡緊張はペロシ訪問だけで生まれたわけではなく、長期的な構造変化の中にある。米中の軍事的接触が増え続ける南シナ海や台湾近海では、今後も「偶発事故」の種が尽きない。ホットラインが止まったまま次の事案が起きた場合、どちらが先に受話器を取るのか——そこが今後の最大の見どころになりそうだ。2022年の秋以降、対話再開の糸口を誰が引くかを見ておく価値はある。