ウィトコフのキエフ未訪問が、ついに公式な「批判」として出てきた。トランプ大統領の特使スティーブ・ウィトコフはモスクワを8回訪問し、プーチンと直接会談を重ねてきた。一方でウクライナの首都キエフには一度も足を運んでいない。大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーも同様。この非対称な動線を、ゼレンスキーはBBCの取材に応じたウクライナメディアのインタビューで、はっきりと「無礼」と言い切った。
「モスクワには来てキエフには来ない。それは無礼だ。ただただ無礼だ」
外交的な言い回しでも、言質を取られない曖昧な表現でもない。ゼレンスキーがここまで直接的に米側を批判したのは珍しい。「ロジスティクスが複雑なのは理解している。それでも来たくないなら、第三国で会えばいい」とも付け加えており、むしろ冷静に選択肢を示しつつ、怒りを滲ませた発言だった。
8対0という数字が語るウクライナ停戦交渉の非対称
停戦交渉が本格化したのは昨秋。それ以来、ウィトコフとクシュナーはモスクワとの接触を積み重ねてきた。ロシア・米国・ウクライナの三者が同席した最後の会談は2月中旬。その直後、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し、ワシントンの外交的な視線は中東へと移っていった。
4月にはキエフ訪問が計画されたという情報もあったが、それも立ち消えになった。今ウィトコフとクシュナーがいる場所はパキスタン——イランとの停戦協議のためだ。ゼレンスキー自身も「米国の関心が中東に向いているのは分かっている」と認めたうえで、それでも協力を続けたいと述べている。言葉の裏に、焦りとも諦めともとれるトーンが混じっていた。
ここで引っかかるのが、訪問回数という外交シグナルの重みだ。特使が赴く場所は、優先順位を如実に示す。モスクワ8回・キエフ0回という数字は、米側がどちらの当事者と深く交渉しているかを、言葉なしに語っている。ゼレンスキーがあえて「無礼」と声に出した理由は、そこにあるんじゃないか、と思う。
クシュナーまで動いているのに、なぜキエフだけ後回しなのか
ウィトコフは元不動産実業家。クシュナーはトランプの娘婿。いずれも正規の外交官ではなく、「大統領の側近」という非公式な立場で動いている。その2人がイランとの停戦交渉にまで投入されているという事実は、トランプ政権が中東に置くウェートの大きさを改めて示している。
ウクライナとイランを天秤にかけているわけではないにしても、米国の交渉チームが物理的にパキスタンにいる間、キエフは後回しになる。ゼレンスキーの「無礼」発言は、そういう現実に対するアラームでもあった。
この先どうなる
イランとの協議が一段落すれば、ウィトコフたちの次の目的地がどこになるかは注目に値する。キエフ訪問が実現するかどうかは、単なるスケジュール調整の問題ではなく、米国がウクライナ停戦交渉をどこまで本気で対称的に扱う気があるかの試金石になる。ゼレンスキーが「第三国でもいい」と言った以上、米側がそれすら応じないなら、ウクライナ側の不満は外交の表舞台に出てくるだろう。数字の非対称が言葉の非対称に変わる前に、ウィトコフの靴底がキエフの地面を踏むかどうか——そこが次の焦点になりそうだ。