JCPOAを「一方的に破棄した張本人」が、今度は「それを超える合意」を宣言している——この逆説に、世界の核外交専門家たちは眉をひそめつつも、目を離せないでいる。2025年、トランプは自身のSNSプラットフォーム「Truth Social」にこう投稿した。
「私たちがイランと結ぶ取引は、通称『イラン核合意』として知られるJCPOAを遥かに上回るものになる」
言葉は強い。ただ、強い言葉ほど中身を問いたくなるのが記者の性というもので、今回も例外じゃなかった。
JCPOAとは何だったか——2015年の枠組みをおさらいする
イラン核合意、正式名称JCPOA(包括的共同行動計画)は、オバマ政権がイギリス・フランス・ドイツ・中国・ロシアとともに2015年に締結した多国間の核不拡散枠組みだった。イランはウラン濃縮を3.67%以下に制限し、遠心分離機の数を大幅に削減する。その見返りに、国際社会はイランへの経済制裁を段階的に解除する——そういう取引だった。
ところが2018年、トランプは第一期政権でこれを離脱。「最悪の合意だ」と切り捨て、制裁を再発動した。その後イランは濃縮度を60%超まで引き上げ、IAEAの査察も事実上形骸化していった。つまり今、イランの核能力は2015年当時より格段に進んでいる、というのが現状らしい。
「上回る合意」の条件——3つの分岐点
トランプ核交渉の行方を左右するのは、大きく3点だと調べるとわかってくる。
まず**ウラン濃縮の上限**。JCPOA時代の3.67%に戻すのか、それともゼロ——つまり完全な濃縮放棄を求めるのか。イランが現在稼働中の施設を考えれば、「ゼロ要求」は交渉の席をひっくり返しかねない水準だ。
次に**査察の深度**。IAEAが「どこでも・いつでも」立ち入れる「アドレス指定なし査察」をイランが受け入れるかどうか。ここはJCPOAでも最大の争点だったポイントで、イランが拒否し続けてきた経緯がある。
そして最大の論点が**「凍結」か「廃棄」か**だ。核開発を一時止めるだけの凍結合意と、施設・技術・材料を物理的に廃棄する完全放棄では、抑止力としての重みがまるで違う。イスラエルはここを最も注視していて、「凍結では受け入れられない」と繰り返している。
この先どうなる
外交筋の話を総合すると、現時点でのイランとアメリカの交渉は「接触段階」にとどまっているとみられる。トランプの投稿は交渉妥結の報告ではなく、むしろイランへの圧力メッセージとして機能している側面が強い——そう読む専門家が少なくない。
イランは国内の強硬派と穏健派の綱引きを抱えており、最高指導者ハメネイ師の判断が全てを決める構造は変わっていない。一方のトランプは、11月の中間選挙サイクルを見据えた「外交的勝利の絵」を必要としている時期でもある。
両者の思惑が一致する瞬間があるとすれば、それが合意の窓口になる。ただし「JCPOAを超える」という言葉の定義を誰がどう埋めるか——そこが決まらない限り、「歴史的合意」はまだSNSの中にだけ存在している。