中国石炭ガス化プロジェクトが、10年以上の沈黙を破って2026年に再始動する――ブルームバーグが報じたこの一報、正直かなり引っかかった。タイミングがきれいすぎる。トランプ関税が激化し、LNG調達網が揺らいだその年に、凍結プロジェクトのスイッチが入るのだから。

なぜ今なのか――トランプ関税が引いた引き金

中国は世界最大級の石炭埋蔵量を持ちながら、この分野への大規模投資をここ10年以上手控えてきた。国際社会へのクリーンエネルギー移行の約束と、国内の大気汚染問題という二重の圧力があったからだ。

ところが2026年、状況が変わった。米中貿易摩擦が本格化し、エネルギー輸入ルートの信頼性が著しく低下。「いざとなれば自前で賄える」という選択肢を、北京は再び引き出しから取り出した格好になる。

「10年以上にわたって休眠状態にあった中国の注目の石炭ガス化プロジェクトが今年始動する見通しとなった」(Bloomberg、2026年4月20日)

石炭ガス化とは、石炭を燃やすのではなく化学反応でガスに転換する技術。天然ガスの代替として使える点が最大のポイントで、輸入依存を一気に下げられる。エネルギー安全保障の文脈では理にかなった選択肢だが、CO2排出量は通常の天然ガスより大幅に多い。

インド・東南アジアへの連鎖――パリ協定崩壊リスクの現実味

問題はここからだ。中国が「エネルギー安全保障のためなら化石燃料回帰も辞さず」という姿勢を見せた瞬間、他国が追随する口実を得る。インドはすでに石炭火力の増設計画を複数抱えており、東南アジア各国も電力需要の急増に悩んでいる。

パリ協定崩壊リスクという言葉は少し前まで大げさに聞こえたかもしれないが、今回の動きでその可能性がぐっとリアルになってきた感じがある。国際的な気候合意は、参加各国が「自分だけ損をしているわけじゃない」という信頼の上に成り立っている。覇権国の一つが国家生存を優先してルールを破れば、連鎖反応は止めにくい。

しかも中国政府はこれを「例外」ではなく「エネルギー安全保障の強化」というフレームで説明してくる可能性が高い。そのフレームが通ってしまえば、他国も同じ論法を使える。

この先どうなる

当面の焦点は、このプロジェクトが単発の例外で終わるのか、それとも中国国内で石炭ガス化投資の本格的な復活を告げる号砲になるのか、という点だろう。COP関連の交渉の場で中国がどう説明するかも注目される。「安全保障上の例外」を認めれば、気候交渉の枠組み自体が骨抜きになりかねない。エネルギー安全保障と脱炭素の綱引き、しばらくは目が離せない。