米海軍がイラン船に発砲した——その事実が確認された瞬間、ホルムズ海峡の緊張は「封鎖」から「交戦」へと段階が変わった。トランプ大統領自身が認めたこの衝突は、封鎖開始以来、艦砲が実際に火を噴いた初のケースとされる。世界の原油輸送量の約20%が通過するこの海峡で、これが何を意味するかは、原油市場が一番よく知っている。
封鎖から発砲へ——革命防衛隊が全軍に警戒令を出した夜
封鎖を突破しようとしたイラン船籍の貨物船に対し、米駆逐艦が発砲。イランは即座に反応した。革命防衛隊は全軍に警戒命令を発令し、高官らは「断固たる報復」を宣言している。
気になるのは、その「報復」の中身がまだ見えないことだ。声明の言葉は強硬だが、具体的な行動のタイムラインは伏せられたまま。ここで動くのか、それとも外交カードとして使うのか——革命防衛隊の次の一手が、この衝突の「温度」を決める。
「トランプ大統領は、米海軍の駆逐艦が封鎖を回避しようとするイラン船籍の船舶に発砲したと述べた。また、米国代表団が更なる和平交渉のためパキスタンへ向かっていると語ったが、イラン側高官は『交渉の予定はない』と述べた。」
— The New York Times / Donald J. Trump
この声明の中に、もうひとつ奇妙な齟齬がある。トランプ大統領は「和平交渉のためパキスタンへ代表団を送った」と述べているが、イラン側高官は「いかなる交渉の予定も存在しない」と真っ向から否定している。発砲と外交打診を同時進行させているのか、あるいは国内向けのメッセージが混線しているのか。どちらにしても、両国の「現状認識」がここまでズレているなら、偶発的な衝突が拡大するリスクはゼロじゃない。
ホルムズ海峡封鎖が長引くほど、エネルギー市場が「慣れ」を失う
ホルムズ海峡封鎖の影響を測る上で見落とせないのが、市場の「織り込み済み」問題だ。封鎖当初は原油価格が急騰したが、時間が経つにつれて投資家はある種の「慣れ」を獲得していく。ところが今回のような実弾衝突が起きると、その慣れが一気に剥がれる。
イランの報復宣言が現実の攻撃につながれば、ホルムズ海峡を通過するタンカーへの保険料は跳ね上がり、迂回ルートのコスト増が世界のエネルギー価格に直撃する。日本への影響も他人事ではなく、中東依存度の高いアジア向け原油の調達コストが変動する可能性がある。
ただ、そこまで一直線に進むかどうかも、まだわからない。イランは経済制裁下でギリギリの国家運営を続けており、全面的な武力衝突に踏み込む体力があるかどうかは別の話だ。
この先どうなる
焦点は三つに絞られる。①革命防衛隊が「報復」を実行に移すかどうか、②パキスタン経由の外交チャンネルが実際に機能するかどうか、③米海軍がホルムズ海峡でのプレゼンスをさらに強化するかどうか。
トランプ政権の過去のパターンを見ると、強硬姿勢と交渉打診を同時並行で走らせる「圧力外交」は珍しくない。イランがそれに乗るかは、国内の強硬派と穏健派のバランス次第でもある。いずれにしても、次の48〜72時間で状況は大きく動きそうだ。ホルムズ海峡から目が離せない週末になった。