ホルムズ海峡近海でのイラン船籍船舶の拿捕——その一報が入った瞬間、テヘランの反応は一本にまとまらなかった。強硬派当局者が「報復する」と声明を出した数時間後、ペゼシュキアン大統領は真逆のメッセージを発信している。世界の原油輸送量の約20%が通過するこの海峡で、同じ政府から正反対の声が同時に上がるのは、イラン内部の権力闘争が相当な局面に来ているサインじゃないかと感じた。

ペゼシュキアン発言が示す「もう一つのイラン」

今回、特に引っかかったのがペゼシュキアン大統領の言葉だった。

「戦争は誰の利益にもならない」——ペゼシュキアン大統領(The New York Times, 2026年4月20日)

これは単なる建前じゃない。米国代表団がすでに追加の和平協議に向けて準備を進めているとも報じられており、イラン米国和平交渉の枠組み自体はまだ生きているらしい。拿捕という強硬な既成事実を突きつけられながら、交渉のテーブルを蹴らない——この二つを同時に成立させようとしている構図が、今のテヘランの苦しさを物語っている。

原油市場が「もう織り込み済み」にしなかった理由

市場の反応も見逃せなかった。拿捕報道の直後、原油先物は再び上昇に転じた。ホルムズ海峡の緊張は今に始まった話ではないが、今回は「核交渉の継続」と「船舶拿捕という実力行使」という矛盾した二つの事実が同時に走っている。トレーダーからすれば、どちらの筋書きが本命か判断できない状況——だから売り切れない、という構造だったんだろう。
イラン米国和平交渉が前進すれば地政学リスクは後退し、価格は落ち着く。逆にホルムズ海峡での緊張が高まれば、供給不安から価格は跳ね上がる。この綱引きが、市場を一方向に動かせない状態にしている。

この先どうなる

焦点は二つ。一つは、ペゼシュキアン大統領が交渉路線を維持できるかどうか。強硬派が「報復」を既成路線にしてしまえば、大統領の対話姿勢は国内で孤立する。もう一つは、米国がこの拿捕をどう位置づけるか——交渉カードとして使うのか、それとも圧力の一環として追加行動に踏み切るのか。
ホルムズ海峡での船舶拿捕が外交的落としどころを探るための「取引材料」に収まるのか、それとも偶発的衝突のきっかけになるのか。テヘランが自分たちの矛盾をどう整理するか、次の48時間が相当なヤマ場になりそうだ。