ロシア中国ガス契約の「割引」が、2029年まで続く——ブルームバーグがそう報じた。欧州がロシア産ガスを締め出してから数年、制裁の煽りを受けているはずのモスクワが、実は北京との長期割引契約を淡々と維持していたという話だ。しかもそれを認めたのはロシア側自身。数字が静かに語る現実は、なかなか重い。
欧州より安く——2029年まで続く「二重価格」の実態
ブルームバーグの報道によると、ロシアは中国が欧州向け価格より割安な条件で天然ガスを調達し続けると見込んでいる。具体的な割引率は明らかにされていないが、期間は少なくとも2029年まで。「パワー・オブ・シベリア」パイプラインを軸にした長期供給スキームが、その背景にある。
欧州がLNGの代替調達に奔走する中、中国はコスト面で有利なエネルギー供給を確保し続けているわけだ。エネルギーコストは製造業の競争力に直結する。安価なガスを使えるメーカーと、高騰したLNGコストを転嫁しなければならないメーカーとでは、時間をかけてコスト格差が開いていく。欧州で産業空洞化が叫ばれているのも、こうした積み重ねがある。
ロシアは、中国が2029年まで欧州より割引価格でガスを購入し続けると見込んでいる。(Bloomberg、2026年4月20日)
エネルギー制裁の抜け穴と言うと語弊があるかもしれないが、少なくとも制裁が「ロシアをエネルギー収入から切り離す」という目標を完全には達成できていないことは、この報道からも読み取れる。ロシアは欧州市場を失う代わりに、中国という巨大な買い手との関係を深め、そこそこ安定したキャッシュフローを維持してきた格好だ。
欧州が払うコストと、中国が得た恩恵の非対称
欧州のエネルギー危機は2022年以降、ガス価格の高騰という形で製造業や家計を直撃した。LNG調達コストは従来のパイプラインガスより割高で、輸送・液化コストも上乗せされる。欧州がロシアに制裁を科す一方、中国はその「抜けた分」を吸収するように割安ガスを取り込んでいったという構図だ。
結果として見えてくるのは、制裁を科した側と科されなかった側の非対称な現実。欧州の工場がエネルギーコストを理由にアジアへ生産を移す動きが続いているとすれば、その一因がこのガス価格差にあると言っても、あながち的外れじゃないだろう。
この先どうなる
2029年以降の契約更新がどういう条件になるかは、まだ見えていない。ただ、ロシアと中国の間にすでに築かれたパイプラインインフラと長期関係は、そう簡単に巻き戻るものでもない。欧州側が制裁の設計を見直すのか、あるいは中国側が地政学リスクを理由に条件を再交渉するのか——どちらの動きも起き得る。エネルギー地政学の地図は、2029年に向けてまだ書き換え途中といったところか。