ビジョン2030が、500億ドル超を投じたネオム建設もろとも、財政の壁に叩きつけられようとしている。これは単なる「計画の遅延」じゃない——サウジアラビアという国の賭けそのものが、想定外の速さで検算を迫られている話だ。
ネオムだけじゃない、凍結・縮小が相次ぐ現場
2016年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が「脱石油」を宣言したとき、世界はその規模に息をのんだ。観光都市、エンタメ産業、テクノロジーハブ——砂漠の上に描いた青写真は、国家ブランディングとして機能していた時期もあった。
ところが2024年以降、雲行きが変わってきた。原油価格が想定を下回り続け、財政赤字が膨らんだ。複数の国際メディアが「プロジェクトの優先順位が見直されている」と報じ始め、ネオムの一部施設は着工を延期、人員削減も確認されている。
調べていて引っかかったのは、縮小されているのがネオムだけじゃないという点だった。紅海沿岸のリゾート開発「NEOM」傘下の各ゾーン、エンタメ特区「キディア」、未来都市「ロシャン」——複数の巨大案件が、ほぼ同時期に静かにトーンダウンしている。
「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が経済変革プログラム『ビジョン2030』を発表してから10年。サウジアラビアは今、財政的な逼迫に直面し、その進路を見直しつつあると報じられた。」(The New York Times)
これを読んだとき、「見直し」という言葉の軽さに少し引っかかった。実態は「軌道修正」というより「現実との和解」に近いんじゃないか。
サウジの財布事情が、世界の投資マップを動かす
ここが見逃せない部分で——サウジの財政問題は、湾岸の一国家の家計の話では済まない。
ビジョン2030の推進エンジンだったサウジアラムコの配当が圧迫され、政府系ファンドのPIFも投資ペースを落としているという報道が出ている。PIFは世界中のスタートアップ、スポーツクラブ、インフラ案件に資金を流してきた巨大プレイヤー。その財布が細れば、グローバルの投資環境にも波紋が広がる。
スポーツ界で言えば、サウジPGAゴルフ統合交渉、プレミアリーグへの資本参入、格闘技イベントの誘致——これらの「スポーツウォッシング」と呼ばれてきた一連の動きが、今後どう変わるかも焦点になってくる。
この先どうなる
MBSが「現実路線」にシフトしたとして、ビジョン2030そのものが消えるわけではない、というのが大方の見立てらしい。ただ、2030年という期限まで残り数年で、脱石油の収益構造はまだ目に見えるレベルで育っていない。
原油価格が回復すれば資金が戻り、プロジェクトが再加速するシナリオもある。一方で、これだけ大規模な「夢の縮小」が公になれば、海外からの投資家や人材の信頼をつなぎとめられるかどうかも問われてくる。
砂漠に直線都市を描いた男の「現実との距離」が、今まさに測られている最中——そういう局面だと思う。