イラン代理勢力の影が、ロンドンにまで伸びていた――。英国警察が捜査に乗り出したのは、ロンドン市内のユダヤ人関連施設を狙った複数の放火事件。犯行の背後にヒズボラやハマスを動かすイランのネットワークがあるのではないか、という疑いが捜査当局の間で急速に強まっているらしい。中東の戦場から遠く離れた欧州の首都で、この規模の組織的工作が疑われるのは異例のことだった。

MI5が「最重要脅威」と名指しするイランの英国内工作

英国の情報機関MI5は近年、イランによる国内での工作活動を最重要脅威の一つと公式に位置づけている。暗殺計画、ハニートラップ、反政府活動家への嫌がらせ――報告されてきた手口は幅広く、ロンドン放火事件もその延長線上で読まれている。

イランが直接手を動かすのではなく、代理勢力を通じて「距離を置いた暴力」を輸出するのは、テヘランが長年磨いてきた戦術だ。ヒズボラはレバノン、ハマスはガザ、フーシはイエメン。それぞれが半独立的に動きながら、イランの戦略的意図を実行する構図が中東では定着している。今回の捜査は、そのネットワークが欧州に展開されていた可能性を示唆している。

「英国警察は、ロンドンのユダヤ人関連施設への放火事件がイランの代理勢力による犯行かどうかを捜査している」――AP通信

ここで引っかかるのは、標的の選び方だ。ユダヤ人関連施設を狙うという行為は、ガザ紛争をめぐる反イスラエル感情と結びつけやすく、単独犯による憎悪犯罪として処理される余地を残す。組織的関与を隠すのに都合のいい「カムフラージュ」として機能しうる、という見方も捜査関係者の間では出ているようだ。

英・イラン関係、立証されれば「決定的な転換点」

現時点で捜査はまだ進行中であり、イランの関与が確定したわけではない。ただ、もし代理勢力との組織的なつながりが立証された場合、英・イラン関係は外交的な修復が難しい局面に入るとみられている。

英国はイランとの間で核合意をめぐる間接的な対話チャンネルを維持してきた経緯がある。その積み上げを、ロンドン放火事件が一気に吹き飛ばしかねない。欧州各国の情報機関も、この捜査の行方を固唾を飲んで見守っているはずだ。

ロンドン放火事件とイラン代理勢力の接点――それが捜査で裏付けられれば、欧州全体の安全保障の議論が塗り替わるかもしれない。MI5イラン工作の実態が白日の下にさらされる日が来るとしたら、その起点はこの事件になる可能性がある。

この先どうなる

英警察の捜査が本格化すれば、今後数週間のうちに逮捕者の身元や通信記録などの証拠が徐々に表面化してくるだろう。イランとの外交的なパイプを持つ英国政府が、捜査結果をどう政治的に扱うかも焦点になる。制裁強化、大使召喚、あるいは欧州連合と連携した集団的対応――選択肢は複数あるが、どれも容易ではない。ひとまず言えるのは、ロンドンの街角で起きたこの事件が、中東情勢の余波を測る新たなバロメーターになったということだ。