FTX崩壊が世界を震撼させてから約1年。法廷で飛び出したのは、予想を上回る証言だった。キャロライン・エリソン——FTX傘下のヘッジファンド「アラメダリサーチ」元CEOにして、サム・バンクマン=フリード(SBF)の元交際相手——が陪審員の前で語った内容は、一人の男の帝国を根底から覆すものだった。
エリソンが語った「10億ドル規模の嘘」の中身
2023年10月、ニューヨーク連邦地裁。エリソンは検察側の証人として証言台に立ち、SBFが自分に対して顧客資金の流用と財務記録の操作を直接指示したと述べた。
「サム・バンクマン=フリードが、私にFTXの顧客資金を不正流用し、財務記録を操作するよう命じた」——キャロライン・エリソン、ニューヨーク連邦地裁での証言(The Associated Press より)
アラメダリサーチはFTXの顧客から集めた資金を、SBFの指示のもと不透明な投資や個人的な支出に充てていたとされる。被害総額は推計80億ドル超。100万人を超える投資家が資産を失った。これほど大規模な暗号資産詐欺は、ビットコイン誕生以降でも前例がほとんどない。
引っかかったのは、エリソン自身が「指示された」という言い方を一貫して使っていた点だ。彼女はアラメダのCEOという肩書きを持ちながら、実質的な意思決定者ではなかったと主張した。共同謀議への関与を認めつつも、司法取引に応じて検察側に協力している。つまり彼女の証言には「自分の刑事責任を軽くしたい」という動機がある——陪審員がどこまでそれを差し引いて判断するかが、裁判の行方を左右しそうだ。
SBFは「暗号資産の救世主」だったはずが
サム・バンクマン=フリード裁判が注目を集める理由は、被告の「それまでの顔」にある。MIT出身で、効果的利他主義の旗手として慈善活動に巨額を投じ、米国の政治献金リストにも名前が並んでいた。仮想通貨業界では「規制に前向きな優等生」として売り込まれ、経営難に陥った他の仮想通貨企業を次々と支援したことで「救済者」とすら呼ばれていた。
その男が、顧客から預かった資金を裏で使い込んでいたとすれば——印象とのギャップは凄まじい。2022年11月、FTTトークンの急落を機に取り付け騒ぎが発生し、FTXは数日で破綻した。その後の調査で、顧客資金とアラメダの運用資金が混在していた実態が明らかになっていく。
規制当局の監視が及びにくいバハマに本社を置いていたことも、今となっては「意図的な設計だったのでは」と見られている。規制の空白を狙って組み立てられた事業構造、とも読めるし、単なる成長優先の結果とも言える。どちらが正しいかは、これからの審理が決める。
この先どうなる
SBFは無罪を主張しており、弁護側は「エリソンの証言は司法取引による動機付けがある」として信用性を攻撃する構えを見せている。評決がどちらに転ぶにしても、FTX崩壊が残した問いは消えない——暗号資産取引所に対する規制の枠組みをどう作るか、だ。米国ではSEC・CFTCの管轄争いが続いており、法整備は遅れている。エリソンの証言が有罪評決に結びつけば、業界全体への規制圧力はさらに強まるだろう。投資家保護の議論が加速する一方で、イノベーションとのバランスをどう取るか——この裁判はその問いを世界に突きつけた形になった。