スタグフレーションという言葉が、2026年の春にまた息を吹き返しつつある。IMFのゲオルギエワ専務理事が4月18日、ブルームバーグとのインタビューで中東紛争の長期化を念頭に置きながら、景気後退とインフレの同時進行というリスクに対し明確な警戒感を示した。1970年代にオイルショックが世界を直撃したあの悪夢——それが重なって見えてきた、というのが率直な印象だった。
原油ルートが揺れるとき、インフレは止まらない
中東紛争が長引けば、まず影響が出るのは原油の供給ルートだ。輸送コストが上がれば、エネルギー価格だけでなく食料品や工業製品の値段にも波及する。コロナ禍でサプライチェーンの脆さを痛感したはずなのに、世界はまた同じ経路でインフレに火をつけるリスクを抱えている。
特に深刻なのが新興国への影響。食料とエネルギーの輸入依存度が高い国々にとって、原油高は生活直撃型のインフレを意味する。加えて、米中対立などで進む「世界の分断」が、需給の調整機能を削いでいる。IMFゲオルギエワ専務理事の懸念は、こうした複合的なリスクが重なる点にある。
「War in Middle East Raises Stagflation Risks for Global Economy」(ブルームバーグ、2026年4月18日、Craig Stirling)
中東紛争と原油価格の連動は過去にも繰り返されてきた。だが今回が厄介なのは、各国中央銀行がすでに「利上げ疲れ」の状態にあること。インフレを抑えるためにさらに金利を上げれば、消費と投資が萎縮して景気後退を加速させる。かといって景気を優先して金融緩和に転じれば、インフレが再燃する。どちらに動いても痛みが伴う、まさに手詰まりの局面だ。
70年代との決定的な違いと、それでも楽観できない理由
「今は1970年代じゃない」という声もある。当時に比べて各国のエネルギー効率は上がり、再生可能エネルギーの普及も進んだ。中央銀行の独立性も高い。確かにそうだろう。ただ、違いがあるからといって安心できる状況でもなかった。地政学リスクが高まるほど、エネルギー市場の「想定外」が起きやすくなる。そして市場は「想定外」に最も弱い。
日本にとっても対岸の火事ではない。円安が続く局面で原油高が重なれば、輸入インフレが家計を直撃する。日銀が利上げペースを判断する材料として、中東情勢が無視できないファクターになっているのは間違いない。
この先どうなる
IMFは今後の世界経済見通しを下方修正する可能性を示唆しており、スタグフレーションシナリオへの対応策を各国に求める圧力も強まりそうだ。焦点は中東紛争の停戦交渉がどう動くか、そして原油の主要産出国が協調減産に踏み切るかどうか。どちらも見通しが立ちにくい分、市場の神経質な動きはしばらく続くんじゃないかとみている。次のIMF年次総会や主要国首脳会議(G7)が、対応策を打ち出す場になるかどうか——そこが当面の注目点だ。